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取り出したスマホには、ロックは掛かっておらず、ホーム画面には絢川一家が幸せそうな笑顔で写っている写真が設定されていた。
「これは絢川純也のものじゃないのか。」
天粕は驚きの表情を見せた。
「当時、絢川純也のスマホだけがどうしても見つからなかったんだ。」
「何でここにあるんですかね。」
本海は不思議そうに首を傾げた。
「…彼は、最後にこのスマホに自身の魂を無意識に同化させたのかもしれない。」
「…スマホに同化?」
「死にたくないという強い意志によって、魂は地上に残され、本人にとって一番思い入れのあるものに魂が乗り移ることがあるの。このスマホには幸せな家族の写真がいっぱい保存されてる。彼は家族を愛していた…その思いがこのスマホに乗り移ったの。」
「…もしかして、それとパソコンやインターネットってのが関係するのか?」
天粕の問い掛けに小阪田は頷いた。
「恐らくそうかも。絢川さんの魂は電子化され、電子の世界に留まっていた。そんな中、私は堕霊を行い、絢川さんの魂を風花さんの霊と同化させてしまった。絢川さんの霊質が上回った結果、風花さんの霊は同じく電子化され、霊体という身体を手に入れたけど、電子機器の側でしか活動は出来なかった…のかもしれない。」
「…大量殺人鬼である絢川純也も、元を正せば可哀想な被害者…、遣る瀬無い結末だな。」
「でも、この風花さんはどうするんですか?」
本海は不安そうに問い掛けた。
「安心してください。私が責任持って彼女の霊を浄霊させますから。」
小阪田はそう言って、横たわる風花に手を合わせた。
…俺は死んだのか?
きっとそうだ。すげぇ痛かったからな。
絢川はどうなったんだ?
風花はどうなったんだ?
俺が最期に見た光景は、絢川の妻子が現れたところだったな。
結局、風花を助けてあげられなかった。本当に駄目な男だよ、俺は。
…てか、ここはどこだ?
目を開いた感覚はあったが、目の前は闇に包まれていた。
…何もない。ここは天国か?それとも地獄か?どっちにしろ、俺の想像とは大分違うな。
何だろ、また眠くなってきたな。心地よい感覚というか、温かい。
「…澪田先輩。」
耳元で囁くような声がし、澪田は振り向いた。
暗闇の中、ぼんやりとした明かりに包まれた風花だった。
「…ふ、風花。」
「ありがとうございます。私のために色々してくれて。」
風花はニコッと笑った。
「いや、俺は何も…。」
澪田は涙を流しながら首を横に振った。
「澪田先輩のお陰で、私は私に戻れました。もう一度、あなたに会いたかったという願いも叶えることが出来て、私は満足です。」
「…どうして、そこまで俺を。」
「私、先輩が居なかったら刑事にはなってなかったと思う。感謝をちゃんと伝えることが出来ないまま、会う機会も無かった。でも、配属先で先輩とまた会えたんです。今の私があるのは先輩のおかげだと、しっかりとお礼を伝えたかった。…先輩は私の目標でした。」
「風花、君は俺を過大評価し過ぎだよ。」
澪田は笑ってみせた。
「今も先輩と話せて心が温かい。…でも、もう行かなきゃ。」
「…行くって?」
「霊媒師のあの子が私をあの世に送ってくれたんです。最期にあなたに会えてよかった。」
風花は澪田の手を握り、ニコッと笑った。
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