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数日後。
「おはようございます。」
「澪田くん、まだ休んでなきゃ駄目だろうが。」
出勤してきた澪田に驚いた滝井が駆け寄ってきた。
「休んでられないですよ。俺はまだ工藤ともちゃんと話せてないし。」
「…あぁ。工藤は、澪田くんにしか話さないとずっと黙秘を続けているよ。…あ、食欲はあるか?」
「え、はい、食欲は。」
「そりゃ良かった!」
滝井は急いで自席に戻ると机の引き出しから次々とカップラーメンを出して机に並べ始めた。
「澪田くんが出勤してきたら一緒に食おうと思ってな、レアなカップラーメンをネットで買い漁っておいたんだよ。」
澪田は「どうも。」と言いながらも、苦笑いを浮かべた。
「お、もう身体大丈夫なのか?来るなら事前に連絡くらい寄越せよ。」
澪田が振り返ると花を抱えた池田が立っていた。
「池田。…その花は?」
「今日は夏海の命日だからな。…墓参りに行く予定だ。」
「…そうか。…夏海ちゃん、赤橋、弓親さん…ほんとに犠牲が多かったな。」
「警察としては、この件はこれからだよ。霊という非科学的なものを交えて、どう世間に公表していくか。…俺はそれを見届けるまでは仕事を続ける。」
「まだ辞めようと思ってたのか。」
「ふん、男に二言はないからな。とりあえず、鞄を置けよ。話はそれからだ。」
「あぁ。」
小阪田は、霊媒師の修業という言葉を池田に残して、行方不明状態だという。
絢川一家殺害については、矢那川が主犯格というところまでは分かっているが、動機は相変わらず不明らしい。不破管理監は服役となったことで懲戒処分となったが、出所後に矢那川の謎を解明するために動くことを、滝井課長に話していたそうだ。
間崎さんは、退院して義手のリハビリを奮闘中とのこと。今度会いに行こうと思う。
池田から俺が眠っていた3ヶ月の話を色々と聞いた。
たかが3ヶ月だが、されど3ヶ月。世の中は止まることなく回っていることを思い知らされた。
今までの出来事が夢であるなら夢であってほしい。
欲を言えば、風花がこの世から居なくなる前まで時間を戻してほしい。
でも、前を向かなくちゃな。風花はきっとあの世から笑っているだろう。
「すみませぇん!!」
遠くからバタバタと騒がしい足音と聞き覚えのある声が聞こえ、澪田は入口に視線を向けた。
滝井や池田はニヤニヤと笑っていた。
「危なぁい、ぎりぎりセーフですね。」
「え!?道永刑事!?」
「あれ!?澪田係長、復帰したんですか!?」
「あ、あぁ。てか、一体…。」
「今日からここに配属になりました、道永さゆりです!」
「…なっ!?」
「力強い仲間が増えたな。」
滝井は澪田の肩を叩いた。
「さ!早速、工藤さんのとこに行きますよ。澪田係長がいないと話にならなくて。」
道永は澪田の手を引いた。
「わ、分かった分かった。ちょっと落ち着けって!」
…復帰してすぐにこの状況は予想外だが、この感じが心地いいな。
澪田は気合いを入れ直してから歩き出した。
ー 完 ー
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