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配置された場所は、最前線からは遠い場所だった。さすがに司令部も気を遣ったらしい。それでもいつもいる場所より蟲の遭遇率は高いし、わたしは常に気を張らざるをえなかった。
「アヤ、前に出られる?」
通信の声。
「前線の魔女たちの生命反応が途絶えてきてる。異常な速さで、次々に。状況がなにもわからない。何人か向かわせたけど、わからないまま。あなたも様子を見てきてちょうだい」
淡々とした声だった。だからわたしも、淡々と返す。
「――異常がはじまって、どれくらいですか」
「二十分。あなたの場所から最前線は、飛んで三十分よ」
最前線の魔女たちを救えるかどうか、ギリギリの時間だ。他人を救うだけの余裕があるかは、わからないけれど。
「ルゥはまだ、生きていますか」
ふいに、ルゥの声が頭によみがえって、訊いた。
「ええ。生命反応はまだあるわ。無事よ」
「それなら、よかったです。前線、向かいます」
通信が途絶えたとたん、ふらりと足元が揺れたような気がした。倒れ込みたくなる。それでも必死に立つ。逃げ出したい。そんなの許されない。行かなきゃ。行くんだ。
空を仰いで、息を吸う。
「ルゥ、約束、破ったらごめん」
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