魔女は空っぽの約束を交わす

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魔女は空っぽの約束を交わす

 ――生きて帰ってきて。  鈍い雲に覆われた夜、廃墟の屋敷で少女たちが言い交わすのは、空っぽの言葉。そんな約束に意味がないことを、もうだれもが知っている。だってみんな、約束を破るじゃないか。 「ルゥ」  わたしの声に「なあに」と振り返ったルゥは、真っ黒のローブにショートパンツの、いつもと同じ服装。硝子のような無垢な瞳に、わたしの姿がぼんやりと映る。 「生きて、帰ってきてね」  意味がないとわかっていても、言わなければいけない言葉もある。わたしもまた、上辺だけをなぞるように口にした。屋敷を囲む鬱蒼とした森には、じめじめとした暑さが這っていて気が滅入る。 「うん。帰ってくるよ。アヤ」  ルゥも形だけの言葉を返して、小柄な身体で空に舞い上がった。  ――今日は、何人死ぬだろう。  わたしたち魔女がこの屋敷を拠点にして、(むし)を討伐し始めて三年と二ヶ月が経った。どれだけ倒しても、蟲は湧いてくる。  ルゥは、わたしたちの希望。無尽蔵な魔力を使い果たすまで蟲の血を浴びて、屋敷に帰ってきて死ぬように眠って、また戦地に戻る。三年と二ヶ月続く、彼女の日常。  魔女は、想いを魔力に変える。戦えば戦うほど、人の心を見失う。  ルゥはもう、わたしの知っているルゥじゃない。服装は、昔のまま。だけど空にかかった虹を眺めていたまぶしい横顔も、楽しくなると突然歌いだす声も、なくしてしまった。ただひたすら、からくり人形のように、蟲の討伐だけを繰り返す。  わたしも、行かなきゃ。 「アヤ、怪我人よ。ミミズクの方角。あなたのところから、飛んで十分ってところ」  魔法付与したペンダントから、魔女の声がした。
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