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「すぐ行きます。怪我してからどれだけ経ちました?」
「まだ五分。余裕でしょう?」
「道中、蟲が出なかったら」
「大丈夫よ、そのあたりの虫は討伐済みだから」
だといいけど。わたしは駆けだした。
前線のルゥとちがって後援部隊のわたしは、負傷者の治療が仕事。時間が、とにかく重要だった。一時間。負傷して一時間以内に治療しないと。
「見つけた。まだ二十分しか経ってない。大丈夫よ」
木陰にもたれかかった少女の腹部は、蟲に貫かれたのか、赤黒く染まっている。息はもうしていなかった。少女に手をかざして、願う。頭に描くイメージは時計。秒針をくるくると回転させる。魔法の青い光に包まれた魔女は、やがて、そっと目を開けた。
「ありがとう。助かった」
それだけ言って、彼女はふわりと飛び立った。また仕事に戻るのだろう。もうすこしくらい、休めばいいのに。さっき死んだばかりで、よく働けるなあと思いながら、なにも言わずに見送る。止める権利も意味もない。
持ち場に戻れば、また通信の声。
「死者発見。ダチョウの方角。そこから四十五分」
死んでどのくらいですか、と訊けば、通信の声が「そうね」と考えて言う。
「三十分くらい?」
「じゃあ、無理です。弔ってあげてください」
負傷者も、死者も、次々に出る。救えない命は捨てる。そうじゃないと、わたしの魔力がもたない。確実に救える者だけを救う。効率重視。無駄なことはしない。だから、仕方ない。仕方ない、と頭の中で繰り返し、自分に言い聞かせる。
――ルゥ、大丈夫かな。
生きて、帰ってきて。その言葉を、昔だったらもっと真剣に言えた。いつから、空っぽになったんだろう。そうなってしまったのは、わたしの心も失われている証拠かもしれない。それが魔力の使いすぎなのか、死体を見過ぎたせいなのかは、わからないけれど。
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