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「アヤ、終わった」
かさりと草の音を鳴らして、ルゥが舞い降りた。わたしが戦地を走り回って、六人救って、三人見捨てた頃だった。雲間から月の光が注いで、ルゥを闇の中に浮かび上がらせる。
「今日は終わり。さっき、ゴイゴイ鳥が鳴いたから」
肌に張り付いた髪を、鬱陶しそうにルゥが払う。蟲の血で全身濡れていて気持ち悪そうだ。湯浴み場に連れて行かないと。このままベッドに入られたら困る。
蟲たちは、なぜだかゴイゴイ鳥が鳴くと、湧いてこなくなる。ゴイゴイ鳥の本当の名前を、わたしは知らない。どう聴いてもゴイゴイと鳴くから、みんなゴイゴイ鳥と呼ぶ。
「ルゥ、まだ寝ないで。血を落とそう」
めんどうくさい、とほとんど寝ている声でルゥが言う。蟲の血でねっとりした彼女の腕を引いて歩き出す。
「怪我してない?」
「してない」
「怪我したら、一時間で戻ってきてね」
「うん」
一時間なら、どんな怪我でも、死人でも、治せるから。
「ルゥ」
「ん」
「おかえり」
返事はなかった。ルゥは、立ったまま寝ていた。わたしはため息をついて、魔法でルゥの身体を浮かせ、湯浴み場まで連れていった。
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