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教室の何とも言えない色のカーテンが、私を優しく包む。
少し鬱陶しかったので、温い風に抗いながら隙間を細める。
カーテンは威勢を急激になくし、萎んだような表情を見せる。
落ち着いたら落ち着いたで、足りないモノがある気もする。
カーテンを小さく掴む。サラサラと触り心地はいい。
そんな事をしているうちに、四限目が始まった。
いきなり先生が、廊下に置いてあるモニターで、授業の映像をながすと、先生が電気をパチパチと消した。
生徒が驚いたような享楽的歓声を上げ、先生が笑う。
私はその瞬間、太陽だけが、私たちの視覚の主導権を握ったと感じた。
時計は秒針を隠し、隣の背の高い男の子に、浅い影がつく。
誰がどこでどのような顔をしているのか分からなくなり、暖まったカーテンと手を繋ぐ。
───春の香りがした。
出席番号順に並べられた、茶色い木の机とイス。
隣の子の名前なんて分からずに、登校した、あの日。
靡く、白いカーテン。
最高に緊張した日であり、最高に、充実した日。
人生で初めて初めて会う人の、話を聞いて、温かい風が巡った春。
一つの春が香った。泣きたくなるように、奥行きのある春の香りがした。
私が、この教室にいる全員が、卒業に向かって駆けていくこの時間。
真面目な委員長の顔を探した。
二度と会わないであろうクラスメートの顔も探した。
小学生の頃から仲の良い友達の顔も探した。
廊下で、すれ違う。最後────。
もう春が、薫り、訪れる事はなかった。
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