資源を消費しない究極の方法

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「……で、この薄っぺらい詩みたいが書かれてるこれってなに?」  そう呟く相棒は、ひび割れた画面に映る文章をグリグリと指でほじくっている。指で文章が隠れたことで、スマートグラスの翻訳機能が時折エラーを吐き出している。この不思議な物は、人類達が「タブレットPC」と呼んでいるものだったはず。 「多分、アイツら人類にとっての、道徳の教科書みたいなものじゃない?」  正直に答えたが、自分でも分からなかった。相棒は嘲笑った。 「あいつら、勝手に僕達の星に来て勝手に資源を奪って生活しておきながら、無駄に使うだなんて、意味不明過ぎない?」  適当に頷いたが、私にはどうでも良かった。  私達の任務は、「人類」という、私達の星を「勝手に侵略」して「勝手に滅亡」した生命体を調べるため、情報になる遺物を少しでも回収する事だ。このタブレットPCは間違いなく回収対象だ。研究所に渡して……。 「あっ!」  突然、相棒が何かを思い出して空を見上げた。今私達がいる場所は建物内だが、天井に穴が空いているため、空からの光が平然と侵入していた。 「どうした?」 「……そういえば、さぁ。ほら、ちょっと前に政府が発表してたじゃんか」 「二ヶ月のアレ? 突然、人類が全て消えた理由についての報告の?」  相棒は「そうそう!」と大きく頷いた。スマートグラスに相棒の精神状態がアイコンとして表示されるが、「興奮」が強く表示されていた。 「……でも、あれってさ、人類が精製した、人類だけ跡形もなく溶解させる薬品を開発して、全人類がそれを浴びたり飲んだりした事が理由だって言ってたけど、それがどうしたの」 「そこじゃなくて、あれだよ。潜入したスパイ達の証言。気になるのあったんだよ!」 「気になるの?」 「『人類が一斉に死体になる数か月前から、変な思想が広がっていた』っての」 「……あっ、あれか!」  思い出した。私もその「思想」の話は少し気になっていた。 「だけど、それがどうしたんだ? 『究極の方法は、我々人類がいなくなればいい』ってやつ?」 「それ! それなんだけど……」  相棒が突然黙り込んだ。スマートグラスには、「恥ずかしい」と「疑り」のアイコンが出ていた。 「……笑わないよな?」 「言ってもらわないと分からないよ。でも笑わないようにするから」  相棒はまた黙り込んだ。何か考えているようだった。無言の時間が流れていくほど、「恥ずかしい」と「疑り」のアイコンが消えていった。 「もしかしたらよぉ、資源を使わないようにするために、人類は自分から滅びたんじゃないかって」 「……ん?」  全く意味が分からなかった。多分、相棒のスマートグラスには、私の精神状態を示すものとして「戸惑い」か「思考中」のアイコンが出ているはずだろう。一方の私のスマートグラスには、相棒の精神状態として「不快」のアイコンが表示されていた。 「もぉ~、笑ってくれたほうがマシだわ」 「ごめん、説明して」  「不快」アイコンは消えなかった。相棒はまた文章をトントンと叩いた。 「いやだからさ、何というかさ、このうすっぺらい文章読んだ限りだとさ、『人類』って、めちゃくちゃ資源をケチってたって感じじゃんか、しかもそれを異常にこだわってた感じで」  無言で頷くと、「不快」アイコンが少しずつ薄くなってきた。 「それでさ、もしかしてこだわり過ぎて、『僕達人類が資源を消費しないようにするにはどうすりゃいんだろう……。そうだ! 資源を消費する存在を無くせばいいんだ! だからそんな存在である僕達がいなくなれば……』ってなって……」  相棒が言葉を止めた。「不快」アイコンが再び強調しだした。 「やっぱりお前……、もういいや。『理解不能』のアイコンがうるさいし」  スマートグラスには「諦め」と「軽蔑」のアイコンが表示された。 「ごめん」 「いや、僕が悪かった。アホな考えだって自分でも分かってるし」  相棒の言っている事はわかる。消費する人類自体がいなくなれば、消費量も削減できる。一人いなくなれば一人分節約できる。究極的に考えればその思考にいきつくのも別におかしくないと、自分は思う。  私が分からなかったのは、資源を節約する人類の発想そのものだ。  資源は寄生してまで使ってこそ豊かになるし、資源がたくさんあるのに節約するなんて、肥満が運動しないみたいで個人的にピンとこない。だけどその考えを話してみても、誰にも共感されない。 「あ、無駄に喋っちゃってゴメン。仕事に戻ろう」  相棒の呼びかけに、我に返った。スマートグラスによると、相棒の精神状態のアイコンは何も表示されていない。 「じゃ、これは私が持っておく」  相棒がうなずいた。私は背中を開いて触手を取り出すと、それを持たせて背中に入れた。先程回収した物品を詰め過ぎたせいで入れにくかったが、他の触手で無理矢理端に追い込ませた事でどうにか入った。 「他には何もなさそうだな……」  私も相棒も周囲を確認したが、散らばる瓦礫しかなかった。 「行こうか」  私の呼びかけに相棒は大きくうなずき、一緒に部屋を出た。  しかし、歩いている間、頭の中で未だ考えがよぎる。  ──資源を消費する存在を無くせばいいんだ!  そんなの無理じゃない? だったら生まれないのが究極の節約では? ……やめよう、それ以上考えちゃダメな気がしてきた。  とにかく、人類の事がわかる物品を一つでも多く回収しなければ。このとんでもない吝嗇至上主義生物についての情報を……。
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