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親友
「鈴代、おめでとう」
「本当によかったわね」
「幸せになってね」
複数のグラスが重ねられる。
同僚たちの華やかな祝福の声に包まれ、森口鈴代は照れたように頬を赤らめた。
「ありがとう、皆さん。急に辞めることになってご迷惑をおかけするというのに、こんなに集まっていただいて、感謝しかありません。皆さんの友情は一生忘れません」
森口鈴代は感極まった表情でいい、目にはうっすら涙をたたえている。
ずんぐりした体形で、お世辞にも美人とはいえない顔立ちの鈴代は、笑うと乱杭歯が露わになり、不美人さがいっそう際立つ。
短い足の上に大きなお尻が突き出しており、それをカバーするようにいつもフワッとした大きめのサイズの服を身につけている。
彼女はその容姿のため、これまで決して幸福とはいいがたい人生を歩んできた。特に恋愛面では辛酸をなめつくしたといっても過言ではない。
寄ってくるのは金目当てでヒモ体質の男ばかり。
彼女がとにかく貢ぐものだから、男たちは搾れるだけ搾り取って去っていく。それでも鈴代は恋愛に臆することなく、常に前向きに好みの男性に猪突猛進を繰り返した。
その甲斐あって今、彼女は暗い過去と決別し、人生の絶頂を迎えようとしていた。
そんな親友の姿を、姫野果里奈はしらけた気持ちで憮然と眺めていた。
本来なら真っ先に祝福の言葉をかけてあげなければならない立場だ。同期入社で同じ二十九歳。三十歳までには絶対に結婚しようねとお互い励まし合ってきた仲だ。いわば戦友である。
他の同期たちがキャリアアップを目指すのを尻目に、果里奈と鈴代の二人だけは理想の結婚相手を見つけて家庭に入ることこそ究極の幸せだと信じて疑わなかった。
時代がいかに変わろうと、女にとって不変の真実がそこにはある。
ミュージカル鑑賞や温泉巡りなど趣味の面でも共通点が多く、二人は無二の親友といえる関係を築きあげてきた。
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