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「姫野さんの故郷じゃなかった?」
全員の視線が一斉に果里奈に注がれる。
果里奈はムスッとした顔でパスタを頬張っている。全員から視線を浴びせられても、無視したままむしゃむしゃと食べつづける。
同僚たちは互いに顔を見合わせ、気まずい表情を浮かべた。
「果里奈先輩は、親友の鈴代先輩がいなくなってしまうので、淋しいんですよね」
新入社員が、気まずい空気を和らげようと、おどけた調子でいった。
鈴代も果里奈のふてくされた態度を気にしてか、あえて明るい声を発する。
「みなさん、ワインの味はいかがですか?」
トマトソースのパスタに合わせて、白ワインが提供されている。ここは果里奈たちが勤める新宿のデパートからほど近い人気のイタリアンレストランである。
「すごくおいしいわ」
「さっきの赤も良かったけど、白も最高」
「これ、鈴代先輩のチョイスですか?」
「実はね――」
みんなの賞賛の声に気を良くしたように、鈴代が得意げに口を開く。
「うちの旦那が作っているワインなの。この店に卸しているのよ。みんなに賞味してもらいたくて、さっきから料理に合わせて赤と白、両方飲んでもらったの」
「へえ。なんていう銘柄ですか?」
「遠山ワイナリーの『勝沼の雫』っていうの。去年、ミラノの品評会で大賞をもらったのよ」
「すごーい」
と、同僚たちが湧きたつ中で、
――ふん。何が、うちの旦那よ。
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