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そもそも女同志に真の友情などありうるのだろうか。
何が寿退社だ。絶対に祝福などしてやるものか――。
「姫野さん、そういう態度はよくないわよ」
大久保課長が隣に座り込んできて、周りに聞こえないように小声でいった。目が怒っている。大久保課長は四十二歳の独身女性だ。
「ひとりだけ、ひがんでいるようにみえるわ。みっともないわよ」
果里奈は心外だった。
「ひがんでなんかいません」
「だったら、笑顔で祝福してあげなさい」
「できません」と口をとがらせる。
大久保は呆れ顔でため息をついた。
「友達でしょ」
「友達だから祝福できないんです」
「どうしてよ」
「だって、鈴代の相手の男性は――既婚者なんですよ」
「しっ!」
と、人差し指を唇に当てた。誰かに聞かれたのではないかと、大久保は周囲を見回す。
「大久保さんだって知ってるじゃないですか」
果里奈と大久保だけが、鈴代の寿退社の真相を知っているのだ。
「今日はおめでたい席なのよ。笑顔で送り出してあげましょう。彼女が寿退社だといっているんだから、それはもう寿退社なの。おめでたいことなの。そう思い込むの。それが友情ってものでしょう」
「そんなものを友情とは呼びません」
果里奈はぷいと顔をそむける。
「あなたと森口さんのお相手の男性との間に、昔、何があったか知らないけど……」
「そういうことじゃありません」
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