親友

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 自分がふてくされたように見えるのは、そんな低次元の理由ではないのだ。  確かに彼は中学時代の初恋の相手には違いないけれど、それは大昔の話だ。今回の件とは関係ない。 「いずれにしても、今日は笑って祝福してあげましょう。みんなの前で森口さんに大恥をかかせるつもり? それが友達のすることかしら?」  もちろん鈴代に恥をかかせるつもりなどない。ただ納得がいかないだけだ。  鈴代が寿退社だとみんなに思ってもらいたいのなら、今日一日は猿芝居に付き合ってあげてもいい。その代わり、私たちの友情は今日限りでおしまいだ。  彼女のやったことは、決して許されることではない。    午後10時にパーティーはお開きとなった。みんなは二次会に繰り出すという。  果里奈はひとりレストランを出て駅への道を急いだ。東口の地下道へ入ろうと階段を降りかけた時、 「果里奈」  と、後ろから声をかけられ、振り返ると、大きな花束を抱えた鈴代が立っていた。 「ちょっと話せない?」  彼女は思いつめた顔でいった。 「二次会はいいの? 将暉(まさき)も合流するんでしょう?」 「みんなには少し遅れていくって伝えてある。このまま果里奈と気まずい状態で別れるなんて、わたし嫌なのよ。五分でいいから、そこの店で話さない?」  通りを渡ったところにあるコーヒーショップを指差した。  果里奈は小さくうなずいた。  果里奈としても、このまま鈴代と音信不通になるのは忍びなかった。  かりにも十一年間、デパートの同じフロアで苦楽をともにし、私生活でも親密な関係を保ってきた。  できれば遺恨を残したくない。
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