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本編
冷たい隙間風が入り込む、2月の狭い木造アパートの一室。こんな重要な場面でももじもじして、無言で見つめ合う。沈黙に耐えきれなくなって、伝えなきゃと思って、最初に口を開いたのは僕だった。
「言っておくけど……君がちょっとばかし黒いからって、君を嫌いになったりしないよ。ほら、白、黄色、茶色。世の中にはいろんなのが居るだろう? それにその……僕はもう……君と一緒に暮らして、君を……好きになってしまったんだ……!」
心臓が張り裂けそうになる。極度の緊張のせいか、掠れた上に上擦った情けない声で、目の前の女性に思いを伝える。
「カァァッ」
彼女は恥ずかしそうに俯いた。その口からは、未だ言葉が出ない。
どうやら緊張しているのだろう。床をつんつん突く癖が出ている。
僕は、その可愛らしい仕草にまた心を弾ませた。
──だが、こうして彼女といられる事は、奇跡と言っても過言ではない。
それは去年12月の雨の日。彼女は橋の欄干に立っていた。
大雨で川が茶色く濁る中、体にまで雨粒を染み込ませて、立っていた。
僕の手が二度と届かない天へ旅立とうとする、直前。何とか止める事ができたのは本当にぎりぎりで、それは正しく奇跡だった。
──そして現在、彼女は以前に増して元気になってくれた。二人で暮らす間で魅力に気付く事も出来たし、最初の方こそ気を許してくれていなかった彼女だが、今や互いに掛け替えのない存在だ。
だから、大丈夫! きっと、OKしてもらえる……
「ず、ずっと僕のそばにいてくれませんか!!!」
「カァァ……」
恥ずかしそうにしながら、コクコク、と頷く。つまり、それって……
「あ、ああありがとう!!!」
僕は、彼女を優しく抱きしめた。
──三日後。
地方新聞の隅に、ある記事が掲載される。
「種族超えた愛 カラスと人間が『結婚』」
その一人と一羽の笑顔は、隣に映る金メダリストのモノより、ずっとずっと輝いていた。
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