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うつむいている僕の前に、再び手紙が舞い降りてきた。
『事故物件の君へ』
ユウコの文字がそこにあった。
『今まで嘘をついていてゴメンね。君が自殺しようとしていたから、どうしても止めたくて手紙を書いたの。
自殺は良くないよ。あたしにも悲しむ人がいると知ったからね。
この部屋で膝を抱えていた時、君がやって来たの。生きづらさを抱えた君が、首を吊ろうとしたから止めたのよ。そして生きる希望を見いだして欲しくて、あたしは手紙を書き続けた』
何ということだ。僕がユウコを励ましていたんじゃなく、彼女が僕を支えていたなんて。
『君と一緒に居られて楽しかったよ。でも、君と直接に言葉を交わしたかった。もっともっと。1万回でも手紙を交換したかったよ。
これからもずっと君と居たいけど、もう行かなくちゃいけないみたい。
君と逢えたから、生まれてきて良かった』
最後の文字は濡れて霞んでいた。
その時、スマホの着信音が鳴った。ユウコのお母さんからで、彼女が息を引き取ったと告げた。
僕は生まれて初めて、人の為に泣いた。
それからの僕は、変わらず事故物件に住んでいる。まだ手紙が目の前で消えているからだ。
書いた手紙が1万枚になったら、天国に着いたユウコから返事が届くと信じている。
『事故物件の君へ』
その言葉で始まる彼女の手紙を待ちわびて、今日も僕はラブレターを書いているよ。
おわり
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