開幕

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言い出したのは彼だ。 「海に流そうぜ。瓶に手紙とか入れてさ」  もうあと一か月もしないで終わりを迎える中学校生活。無事に進学先も決まり校内の緊張感はほどけていた。  高校入学前の課題を俊貴の家で一緒にしていた時。あまり集中できずに、机の上のポテチとクッキーにしか手が伸ばなくなっていた時。彼が突然言い始めたのだ。進学先の高校が違うわけではないけれど思い出に残ることがしたい。真面目な顔で言われたので首を縦に振るしか選択肢がなかった。 「将来への自分達に手紙。良さそうじゃね?」  いかにも中学生がしたそうなこと。  しかし、これはチャンスかもしれない。そう思ったのは、私が俊貴に片想いをしているから。  嬉しいのか悲しいのか私と俊貴は、周りからあの二人は付き合っているのではと定期的に噂をされてきた。俊貴は「明るくて人気者」と私とは真逆で、幼馴染の関係性であることが奇跡なくらい。付き合うなんて空の向こうほどハードルが高い。  遊びに行くときも連絡をするときも、全部向こうから。それが無くなれば私から何かしらのアクションを起こすことなんて滅多にないから、友達としての縁も恋愛感情も薄れると思っていた。しかし、俊貴は何故だか私のことを『大親友』だと思ってくれている。そのために定期的にお互いの家に行き来したり、なんでもないことを話すために通話をしたり。ずるずる『友達』を続けてしまっている。  そんな俊貴に告白なんてもってのほか。今までの関係性が崩れるくらいならと避けてきた道。親友の立場は居心地が良いけれど、それが続いていけばいくほど欲張りたくなる気持ちが膨らんでいく。
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