開幕

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『卒業式の前日に流しに行こう』  約束をしてから当日俊貴が家に迎えに来るまでは、実は冗談でしたとかそういう流れなのではと不安だった。それでもちゃんと手紙は書いてはいた。  家から歩いて十五分くらいの所にある海水浴場。親に言うと叱られるかもと反抗しきれない私たちは、普段通り課題してくるとお互いの親に嘘をついていた。そして肌寒い砂浜を二人で歩いた。『いい感じの瓶ないかな』下を向いて探していたら、俊貴がずんずんと前に進んでいたようで、私に向かって大きく手を振っている。もたつく足でなんとか早歩きをする。 「これ良さそう。どう?」  濃い茶色のビール瓶ともう一つは明るい緑色の瓶。緑色のは何の瓶かわからなかった。  帰る時に『いつか探しに行こう』みたいな曖昧な口約束をしたことは覚えているけれど、どっちが言い出したかは覚えていない。 二つとも中身が入っていたみたいで、俊貴が無理矢理栓を引き抜いたらあまり良くない匂いがして、二人で笑い転げて瓶をひたすら洗ったのは良い思い出。  俊貴への告白。ラブレター。    これが瓶に詰められ大海に流れ、もしかしたら見知らぬ土地に流れ着くのかと思うと恐ろしかった。俊貴は「戻ってくるでしょ」と、根拠のない自身を述べていたけれど、どうしても私には頼りなさすぎる言葉だった。  だから私は思いついた。  瓶に入れるのはダミーの手紙で、いつの日かメッセージボトルを回収しに行こうと約束できるまで、この手紙は大切に取っておこうと。
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