開幕

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 勇気と汗を振り絞ってメッセージを送ったその日に俊貴から返事が来た。  残りのそうめんと父がたまたまスーパーで見つけたというお徳用刺身を食べていた。愛犬が机の下からきらきらに目を光らせているので『少しだけだよ』とおやつをあげたら、私が母に怒られてしまった。  膝に置いておいたスマホが震えた感じがしたのでちらりと覗くと、きゅっと口角が上がる感覚。お行儀が悪いけれどそのままリビングを飛び出してお母さんの声も聞こえないふりをして、部屋のベッドに直行。なんとなくリビングでは落ち着かないから。すぐ既読をつけてしまうと。『返信待ってました』と言う気持ちが丸出しで恥ずかしいので、五分くらい置いてトーク画面を開く。 「懐かしすぎ。そういえば流したな」  『そういえば』に若干の悲しさを覚えたけれど、俊貴も覚えていたことは嬉しかった。ここまで来たら最後まで突っ走るしかない。毎年のバレンタインやクリスマスに喉まで出かかった言葉を苦々しく呑み込んでいた今までの私ではない。はずだから、いざ人生最大の勇気を振り絞る時。清水の舞台から飛び降りる時。 「探しに行かない?20歳になったし。」  不自然じゃないはず。節目の年、二十歳の年。いい口実になるでしょう。  五年間も眠らせていた手紙が報われますように。  リビングに戻って冷めきった夕飯を再開した。
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