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春にしては暑い青空の下、室内には黒い服を着た親戚が集まっていた。私自身も残り1年も着ない制服を着て参加している。
「ギリギリまで顔が見られるなんて。火葬場ここにして本当によかったわね」
母が涙を拭いながら父に話しかけていた。親戚たちの目の前には開かれた棺があった。中には枯れ木のように痩せ細った老人が横たわっている。彼は私のひいおじちゃんだ。骨と皮だけであり、つい最近まで生きていたのが不思議なくらいで、本当に約束を守ってくれたんだな、と実感する。
「ちよ、火葬の時間が迫ってる。早くアレを入れてくれ」
そう声をかけたのは兄であるばんにぃだった。少し年上のばんにぃはすらっと背は高かったが、すました顔は妙に幼かった。成人したら、もう少し愛想よくなるものだと思っていたのに。ばんにぃの変わらない様子に呆れながらも、袋から掌くらいの小さな木靴を取り出した。
靴の上部には風車が描かれており、全体にはチューリップが咲きほこっている。とはいったが、子どものときに描いたためか花はトゲトゲの器だし、風車も三角形を円になるように並べられているだけだった。私はその木靴をひいおじいちゃんが抱えて見えるように、肘のところに置く。
「これでいいかな・・・・・・約束、守ったよ」
ひいおじいちゃんに向かって、ぽつりと呟いた。
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