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 10年前、私は家族と遊園地に来ていた。遊園地内はレンガで出来た縦長の建物が並び、ヨーロッパのような風景が広がっている。別の箇所では花畑の中で風車が回っていた。私たちは昼食を食べ終えお土産を探していた。 「ひいおじいちゃんへのお土産どうしようか?」  父に尋ねられ、母は悩む。ひいおじいちゃんはすでに外出するのも一苦労の状態で祖父母と留守番をしていた。 「そうねぇ、ひいおばあちゃんとよく行ってたからお土産っぽいものはすでに持っていそうだし」  考えながら歩いていると、目の前に一際大きな黄色い靴が見えた。近づくと、私が入れそうなくらいの大きさでつま先が尖っている。 「これはオランダの木靴だ。クロンプともいうみたい」  ばんにぃが黄色い靴に入っていく私に説明した。木の靴なんて重いし歩きにくそう。歩いている自分を想像していると、ばんにぃがすぐ隣にあった店を指す。 「あそこで木靴の色つけができるって。パンフレットに書いてある」 「世界に一つだけの木靴なんていいんじゃない? ひいおじいちゃん喜ぶわよ」  母の顔がぱっと明るくなり、私とばんにぃを押し出すように店の中に入っていった。店内には赤や青、白などの木靴がずらりと並んでいる。その奥には「体験教室」と書かれた看板とテーブルがあった。さっそく母が木靴と絵の具を手に入れ、椅子に座らせる。 「それじゃ、万寿郎と千代子で片方ずつね」  渡された木靴は掌に乗るくらい小さくて、赤ちゃんでも履けなさそうだった。 「何を描けばいいの?」 「ちよの好きなものでいいんじゃない? それかここでの思い出とか」  そう言われて今日のことを振り返る。確か迷路に行ったり博物館みたいな場所に入ったりしたけど、絵にするのは難しいな。一方、ばんにぃはさっそく筆をとり何か描いていた。靴の側面に緑の線を描き、その上にピンクの絵の具を置く。重ねるとコップのような形になり、先ほど見た花畑と重なった。 「あ、チューリップ。私も描く」  筆に赤い絵の具をつけ、ばんにぃの真似をしながら描く。 「あと、風車も描かないとね」  木靴にたくさんのチューリップを咲かせると、上の方に風車を描いていった。確か小屋みたいなのがあって、その前に回るところがついてるんだっけ。思い浮かべながら、四角形や三角形を使って風車を描き上げていった。最後に絵の具を乾燥させ、プレゼント用の袋に入れる。 母から手渡されると、世界に一つだけの小さな木靴が両手に乗った。ひいおじいちゃん、きっと喜んでくれるよね。帰るまでにはまだ時間があるのに、私の胸は躍っていた。
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