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 その夜、祖父母の家に帰ると皆リビングでくつろいでいた。ひいおじいちゃんもいつもの座椅子に座りテレビを見ている。 「おかえり、どうだった?」 「すごく楽しかった。いっぱいアトラクション乗ったし風車もチューリップも見てきたよ」 「そうかそうか、それはよかった。昔はあの人とよく行ってての、ただ花を見に行くだけやけど楽しくて」  ひいおじいちゃんがぼんやりと見上げる。その先の壁には少し若いひいおじちゃんと並んでいる白髪交じりのおばあちゃんの写真がかけられていた。たぶん、ひいおばあちゃんなんだろうけど、ばんにぃが生まれる前に死んじゃったから、私も写真でしか知らない。一方、ひいおじいちゃんの思い出話は続いていた。 「でも、まさか自分より先にいなくなるとはのぅ。だから、お兄ちゃんには万寿郎、お前さんには千代子と名付けたんや」 「もう、その話は千代子に何回もしてあげてるでしょ」  母がため息をつく。でも、それだけ大切な話なんだろう。両親がお土産を出していると、昼間に作った木靴の袋も出していた。ひいおじいちゃんにあげなきゃ。私はお土産の中から木靴をとり、ひいおじちゃんの前に差し出した。 「これお土産。遊園地で作ってきたの」 「ほう、これはこれは。よく描けておる」  受け取ると、観察するようにくまなく木靴を見た。シワで重くなった瞼が開かれ、靴の底まで確認する。 「本当によく描けとる。チューリップと風車があって、懐かしいのぅ。あの人にも見せてやりたい」  そして、ひいおじいちゃんは顔を上げ、私と視線をあわせた。 「なぁ、もし死んじまったら、この木靴も燃やしてくれんか?」  え、と声が漏れる。せっかくがんばって絵を描いたのに、燃やしちゃうなんて。それに・・・・・・。  頭に浮かんだのは棺桶に横たわったひいおじいちゃん。その手には木靴が抱かれて、下から火がつくと棺桶や着ていた服が黒くなる。やがて、ひいおじいちゃん自身にも火がつき、じわじわと骨になっていった。 「そんなのイヤ!」  私はひいおじいちゃんが持っていた木靴を奪うと、リビングを出る。そして、外へも飛び出した。後ろから名前を呼ばれた気がした。でも、そんなのに構ってられない。 「燃やされるのも、死んじゃうのもイヤ」  私は走りながら叫んだ。家の目の前は坂になっており、そこを下っていく。急なせいか、いつもよりずっと早く走れた。道を曲がっても坂ばかりで私はそこをどんどん駆け下りていった。
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