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 だんだん走っているうちに周囲は暗くなっていき、木々が増えていった。滑り止め用の段差がかえって走りにくく、ついに私はそれにつまづく。  あ、と声を漏らすと同時に地面に手と膝をついた。細かい石が刺さって痛い。すぐに起き上がり、小石を払う。手がヒリヒリするし、膝からは血が出てそうだから絶対見ない。すぐに転がった木靴を拾い上げ、顔を下げないように周りを見る。  そこは墓場だった。自分より背の高い墓石は黒く冷たい。それが辺り一面に並び、暗い影を作る。ひいおじいちゃんもいつかあの中に入っちゃうの、そんなのやだよ。周りも見たくなくなって私は目を覆い、しゃがみ込んだ。でも、これだと動けないしどうしたらいいの。 だんだん涙が溢れてきて、顔を濡らしていく。だんだん声も抑えられなくなってきたそのとき、 「ちよ、なにしてんの」  声がして顔を上げると、兄が覗き込んでいた。 「なんで、ばんにぃがここにいるの?」 「急に家を出たから、後を追ってきたんだよ。それでお墓のところ行ったら、ちよがうずくまってて」  何かあったの、と言いたげにさらに顔を見てくる。咄嗟になんでもない、と立ち上がり進んでいった。その瞬間、すりむいた膝が痛み立ち止まってしまう。すぐにお墓前の段差に座った。ばんにぃがいるおかげか、少しだけ怖くなくなった。 「ちよはなんで家出なんかしたの?」  私の隣にばんにぃが座る。年の離れたばんにぃは頭一個分高い。 「ひいおじいちゃんに木靴をあげたら『死んだときに燃やしてくれ』っていって」 「あぁ、そういうことか」  ばんにぃはため息をついた。 「たぶん、それは『副葬品』のことだと思う」 「フクソーヒン?」 「死んだ人と一緒に棺桶に入れる物をそういうんだ。一緒に入れると、あの世に持って行けるんだって」  その説明を聞いて頭に思い浮かべる。ひいおじいちゃんはあの世に持っていきたかったってことなのかな。 「なんで木靴なの。これはひいおじいちゃんの足には小さすぎるし、もっと色々あるのに」  それはだな、とばんにぃは唸った。しばらくして、口を開く。 「きっとそれくらい嬉しかったってことじゃないか」  嬉しかったんだ。一瞬心の曇りが晴れた気がした。しかし、肝心な太陽を隠す雲がとれない。 「嬉しくないのか」  ばんにぃが首を傾げた。もちろん嬉しいけど、やっぱり・・・・・・。 「ひいおじいちゃんが死んじゃうの、いやだなって」  再び私は顔を隠した。遠くへ行ってしまうひいおじいちゃんを想像し泣きそうになった。すると、頭をわしゃわしゃと撫でられる。髪が酷く乱されたのに、すごく落ち着いた。 「それなら、ちよの気持ち、ひいおじいちゃんに伝えた方がいい」  そう話すばんにぃは少しだけ笑った気がした。
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