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6
火葬してから約1時間半が経過し、私は控え室にいる親戚にお茶を入れていた。
「お待たせしてすみません。おかわり入りませんか」
「ありがとう、若いのに気が利くね」
おじさんの前にある湯飲みにお茶を注ぐと、辛うじて薄い湯気が浮かぶ。
「一応、大人ですからね」
微笑むと、母親たちがいる場所へ戻る。そこにはお湯の入ったポットや予備の湯飲みが置いてあった。
「また、お茶冷めてきたから作り直さないと」
「もういいよ、ちよ。火葬終わったって」
ばんにぃは作り直そうとする私から急須を奪い取ると、ドアの方へ背中を押した。どうりで父や祖父がいないと思ったら、そういうことね。
「いいよ、私は。さっき散々お別れしたし」
それになんか怖いし、と怯えたような視線を向けるが、ばんにぃはドアの方を指差すばかりだ。渋々先ほどいた火葬炉の前に戻ると、すでに親族が集まっていた。
「本当にすっかり灰になっちまったな」
「そりゃ、あんなに痩せ細っていればね」
父の隣に立てば、ひいおじいちゃんの棺が置かれていた台には代わりに灰が積もっている状態だった。よく見ると、微かに白い塊が点々と並んでおり、それを繋ぐことでやっと人が寝ていたと分かる。それでも、先ほどまでひいおじいちゃんが寝ていたようには見えなかった。
「だいぶ待たせたし、骨上げ始めるか。箸と壺は」
父が道具を取りに離れると、ばんにぃが様子を見に来る。
「ひいおじいちゃん、ひいおばあちゃんに会えたかな」
私が呟くと、ばんにぃは遺骨の真ん中辺りを指差した。
「きっと会えたよ。木靴も持ってたし」
指した場所を見ると、肘の辺りで腕の細かい骨の残骸が残っていた。だが、木靴の方は跡形もなく灰になっていて、消えているようにも見えた。
「ホントに持って行っちゃったんだね、ひいおじいちゃん」
「今頃、空の上で自慢してると思うよ、木靴をくれたちよのこと」
ばんにぃは火葬炉の向かいにある窓を眺める。窓の外では青空が広がっていたが、肝心な兄の顔は少しだけ曇っている。
「大丈夫、ばんにぃのことも自慢してるよ」
肩を小突くと、兄は驚いたように私を見た。そして、返事をするように微笑み、再び空を見上げる。澄んだ空の中央に一つだけ雲が浮かび、そこから楽しげな声が聞こえた気がした。
おわり
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