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自らの「故郷」へと久しぶりに帰ってきた姫さまは、華やかな街の景色をぼんやりと見送りながら目を細めていた。彼女の視線には、生まれの地を懐かしむ気持ちと、一方でどこか恨めしいような、疎んじているような後ろ向きな感情が混在しているように感じられた。
「華やかな街ですね」
「えっ?」
私が声をかけると、不意打ちを受けたように姫さまがこちらを振り向く。それから、小さく嘆息して。
「……そうね、相変わらずだわ」
「長らくぶりの帰郷ともなれば、感慨深いものもあるものですか?」
「いいえ……と言えば嘘になってしまうけれど。でも、この街はやっぱり私には煩わしすぎるわ。せいぜい、辺境の地で郷愁にふけるくらいが丁度いい塩梅ね」
「ははは、手厳しいですね」
苦笑いで返しつつも、私は姫さまのそういう姿勢にも好感を覚える。このような華美な世界に対しても全く物怖じせず、どころか、何と堂々としていて気位のある態度だろう。姫さまの隣に立つ限り、私も胸を張って歩かなければ、恥をかかせてしまうというものだ。
「まあそれでも。そうね、一つだけ」
姫さまは、視線を銀の山脈の果てに広がる青空に移しながらポツリと呟いた。
「お父様……いえ、国王陛下とお会いできるのは楽しみだわ。お姉さまの凱旋の折以来だもの」
姫さまが、視線を下にやりながら照れ臭そうにそう語る。
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