皇女凱旋

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 というのも、リッツォーノといえば、かつて大陸を救ったとされる先代勇者の血族の子孫が持つ性なのである。私の愛読書の一つである「アルゴ英雄記」によれば、かの勇者は元々は平民の出だったが、魔王討伐の後にその功績を称えられて「イルシア連邦」……つまりかつての「白銀の大国」から騎士号を授与されたという。そして、一族の全員が貴族と同等の待遇を受けて、姓を名乗ることを許された。  その性こそが「リッツォーノ」なのだ。これは知る人ぞ知る情報であり、私とて、姫さまの許可を得て立ち入ることのできる特別な書庫に置かれた資料からそれを得ることができたのだが。 「何か?」  アロセリアは私の反応に、怪訝そうに眉を潜めている。私は、取り繕う余裕さえなく、慌てて首を振ると。 「い、いえ! すみません……。えっと、その、恐縮です」  急いで、二人の差し伸べる手を順にとり、握手をかわした。  そのまま、盗み見るようにアロセリアの秀麗に整った顔を伺う。まさか、それでは彼女が「勇者の血族」ということなのだろうか。神の祝福はその血にも宿るというけれど、だとすれば彼女が王国の剣に選ばれる理由についても納得がいくというものだ。  ただ、ひとつだけ気になることは、アロセリアの外見が正真正銘のエルフ族であるということだ。言い伝えによれば先代勇者はヒューマンの出であるし、歴代の勇者の中にもエルフはいなかったはず。となれば、やはり同性なだけで彼女自身は勇者とは無関係なのだろうか。
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