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「……フーッ! フーッ!」
覚えているのは、ただ憎かったこと。
「フッ! フーッ!! フーッ」
痛かったこと。苦しかったこと。
目に映る何もかもが、許せなかったこと。
「……なんて酷い怪我」
そして、そんな私のことを、誰かが見下ろしていて。
「……様! 危険です、お下がりください!」
霞む視界の向こうからそっと手を伸ばし、私に触れようとしてきた。
「ウウ〜ッ!! ヴァーッ!!」
体中が軋むような、崩れていくような感覚を覚えながら、私は必死に四肢を振り乱して悶えた。生の傷口が開き、真っ赤な血が吹き出した。鮮やかで、艶やかな、赤い血が。
しかし、私のそんな姿を見ても、彼女は躊躇することなく私の頬に触れた。
「怖くないわ。大丈夫、じっとしてて」
その掌は、とても暖かくて、優しくて。久しく忘れていたような、けれど遠い昔に、たしかに覚えがあるような温もりで。
いつの間にか、私は目を細め、力を抜いてその温もりに体を預けようとしていたのだ。
彼女は、ゆっくりと私の体を抱き寄せると。
「そう。安心して。私はあなたを傷つけたりしないわ」
心地よかった。
何もかもが許されていくような。
息が止まるほどに、暖かい声音だった。
彼女の声に、ずっと包まれていたいと思った。
「ねえ、あなたはどうして私の前に現れたの?」
意識が霞んでいく。
耳元で囁く彼女の声が、少しずつ遠のく。
閉ざされるように、深い闇の底へと私は沈んでいく。
最後に私の頭に響いてきた言葉は。
「あなたは、私を幸せにしてくれるの?」
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