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「……ス! ……アス! ねえ、リアス! 聞いているの?」
「……はっ!」
私は、何度も自分の名を呼びかける女性の声で、ようやく目を覚ました。どうやら、いつの間にかうとうとと眠り込んでしまっていたらしい。
「あ、す、すみません、姫さま! あの、少し考え事を! いえ、決して眠っていたわけではないんです!」
私が目を開けると、向かいには白いドレスに身を包んだ黒髪の美しい女性が座っていた。女性、といってもまだ私と同い年、少女と言っても差し支えない年齢なのだが、彼女はとても落ち着いた美貌を備えていて、実際よりも随分と大人びて見える。
その女性は私の言い訳を聞くと、まるで純度の高い真珠のような白く美しい瞳を細めて、呆れたように言った。
「どう見ても眠っていたじゃない。涎が垂れてるわ」
「え! ほ、本当ですか!?」
「嘘よ。でも、やっぱり眠っていたのね」
「は、ははは……」
私はバツが悪そうに頭をかいた。
向かいに座る姫さま、ことこの「白銀の大国」の第七皇女シルフィリディア・スライン・メルクリウス様は、やれやれとため息をつく。それから、視線を外して窓の外に目をやった。
「もうすぐ着くわ。お昼寝をするのもいいけれど、宮廷では私に恥をかかせないでね」
私は今、姫さまと共に、北の辺境の地より王都「ダイヤモンドパレス」へと向かう馬車に乗っていた。揺れる車内で窓際に肘をつきながら流れる景色を眺めていたところ、ついうっかり眠気に襲われてうたた寝をしてしまっていた、というわけだ。
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