皇女凱旋

3/17
前へ
/170ページ
次へ
 馬車の中は、皇族が利用するということもあり、良質な紅の布で設えられた豪華な内装で、とても広々としていた。その気になれば足を伸ばして思い切りノビをすることもできるだろう。そんなことをすれば姫さまは少し怒るだろうか。  怒るだろうな。少しどころではなく。 「は、はい! 姫さまのために頑張ります!」  私は、馬車の中で精一杯背筋を立てて敬礼をする。対して、姫さまは景色を見つめたまま、何とはなしにポツリと。 「昨日は眠れた?」 「あ〜……はい! とてもよく!」 「嘘。明け方まで起きていたでしょう? 知っているわ」 「う、うぅ……それは、その。こ、皇宮というのは初めてなもので、色々と考え込んでしまい……。申し訳ありません」 「まあ無理もないわ。私も、戻るのは久しぶりだから」  姫さまが領主をつとめる大国の辺境、「樹氷の街」シルフドタウンを出発してより、およそ半月以上が経つ。こうして遠路遥々、国の中心部まで遠征をしている理由は、もちろんお忍び旅行などではない。  先日、姫さまはめでたく齢十五の誕生日を迎えられた。それはこの国の皇族にとっては、成人を迎えた、ということになり、加えて皇位継承の権利を持つ存在の一人になった、ということでもある。  故に、この年齢を迎えた皇族は必ず、皇宮へと凱旋して国王陛下、即ち国家元首である「(すめらぎ)」への謁見を行わなくてはならないのだ。同時に、皇族の成人式は王都を挙げてのセレモニーとなり、姫さまは今回、華々しくもその主役となられるわけである。そして私は、そんなめでたい式典において、光栄なことに姫さまの従者、つまり専属騎士として任命され、こうして長い旅路に同行しているというわけだった。
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加