皇女凱旋

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 窓の外にはいつの間にか、白銀に輝く尾根がいくつも連なっているのが見える。大国の中枢を守護する自然の砦、北のギルカルド山脈だ。これが見えているということは、本当に王都までもういくばくもない、ということになるだろう。  私は、太陽を反射する眩い雪景色に目を細めながら、姫さまに問いかける。 「王都はやはり懐かしいですか?」 「そうでもないわ。あそこは私には合わなかったから」 「そうなのですか?」 「ええ。誰も彼も格式ばかり。それに、みんなこの一面の積雪よりもキラキラと輝く衣装に身を包んでいて、居心地が悪いのよ」 「うええ、それはなんというか……ますます緊張してきました」  姫さまの話を聞いて、なんだか、私にはとても場違いな場所に向かっているような気がしてくる。キラキラした場所か、嫌だなぁ。行きたくないなぁ。きっと街行く人誰もが眩しく見えるんだろうなぁ。 「あら、リアスだって黙っていれば、皇宮の麗人なんかには決して見劣りしないわよ。むしろ街中を歩くだけで注目の的になるんじゃないかしら」 「そ、そうですか? 私のことなんか、誰も気に留めないと思いますが。……いえ、もしかしたら唾をかけられるかも!」 「つばを?」 「そうです! 姫さまのような美しくて聡明で可憐で優しく……えーと……あと、思慮深くて闊達で勤勉で痛快で、分け隔てなく平和主義者で動物が大好きで、それから……」 「もう、それくらいにしなさい。目の前でいきなりそんなに褒められると恥ずかしいわ」  私が大真面目で姫さまを称える言葉を探していると、姫さまは顔を赤くしてそれを遮ってくる。
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