皇女凱旋

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 何か気に触ることを言ってしまっただろうか。私はいつも姫さまを困らせてばかりだから、また調子に乗って、何か姫さまの気分を害してしまったのかもしれない。ああ、どうして私はこういつも上手くやれないのだろうか。  すぐに先ほどの自信がなくなって、私はしょぼんと小さくなってしまう。そんな私に向かって、姫さまは外を見つめたまま、ポツリと零すように。 「ねえ、リアス?」 「は、はい、なんでしょう!」 「実は私もね、昨日は全然眠れなかったのよ」  そう告白する姫さまの表情は、確かに笑っているようだった。  ♦︎  雪溶けの公道に沿って馬車が進む。もうすぐ、この国では随分短い夏が始まるのを、色づき始めた野の草が告げていた。  長いこと座ったままでいると、足がむくんでパンパンになってしまいそうだ。市井のものと比べれば驚くほどに質がいいとはいえ、やはりずっと座りっぱなしでは退屈になってしまう。  だから、とりあえずそういう時は姫さまのことを見ていることにした。姫さまはどんな時にも気品を欠かさず、たまに思わず漏れ出るあくびでさえ美しい。この長い旅路の中でずっとお側に付き従っていたというのに、見ていてまるで飽きることがない。いや、それどころか、叶うことならずっとこうして姫さまのことを眺めていたいとさえ思うのだから、やっぱりすごい。  一方、彼女の方も所在がないせいか、しきりにこちらと目が合うのだが、とうとう先程、 「あまりこちらを見つめないで。いつまでも見られているとやりづらいわ」  と諭されてしまった。姫さまは人に見られるのはあまり好きではない。今度からはもっとバレないように見ることにしよう。
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