7人が本棚に入れています
本棚に追加
「っ、ううん、ゴホン」
また、一つ咳ばらいをする。
何かを伝えたいであろう海斗をじっと見つめていると目をつぶる様に言われた。
「こうでいい?」
「うん、ごめん。ドレスアップした月海に見つめられるとどうにも緊張して言葉がでない」
ガラにもない事を言うなと思いながらもお洒落したことを褒められた様で少し嬉しく、口元がほころぶ。
海斗の視線は目を閉じていても解る程、強く私に向けられていた。
「月海、今日は俺の誕生日にこんなに素敵な時間をプレゼントしてくれてありがとう。月海と出逢ったのは海に浮かぶ満月の夜だった。交際を申し込んだのも月夜の海。月海の名前と俺の名前が俺たちを繋いでくれていると思ってる。だから月海の誕生日まで待つつもりだった。でも、今夜、出逢った時と同じ満月が浮かぶ海が目の前にある。このチャンスを逃しちゃダメだと思った」
私は震える声の海斗の言葉を黙って聞いていた。
海斗は大きく深呼吸をするとガタンッと音を立て立ち上がった。
「月海、目を閉じたまま俺の手を取って」
私の左手を取ると椅子からゆっくりと立ち上がらせる。
腰に右手を添えて、ダイニングの先にあるバルコニーへ進んだ。
ガチャッ
バルコニーの扉を開けると夜風が潮の匂いと波の音を運んでくる。
「足元、気を付けて俺に身体預けて」
段差に気を配り歩調を合わせてバルコニーへ下りた。
肩にかかるショールが風になびいている。
海斗は私の両肩に手を置き、身体をゆっくり半回転させた。
「月海、目を開けて」
私の右肩、海斗の左肩に満月が浮かぶ海が広がる。
黙って海斗を見上げると胸の辺りで濃紺の小さな箱が開いた。
最初のコメントを投稿しよう!