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「俺のミキちゃんへの気持ちはあの日からずっと変わってないよ。ミキちゃんが友達として返事をしてくれたのは分かってる。それでも俺はあの時から本気だったよ。俺はずっとミキちゃんが好き。ミキちゃん以外考えられないんだよ。」
「さっきからあの時あの時って、何の話してんの?」
俺とカンタの間で何かがあったのだろうか。
返事をしたとは何のことだろうか。
まるで思い当たる節がない俺は、カンタが何を言いたいのかが分からない。
困惑してカンタを見つめる俺の左手にカンタの手が触れた。
俺は驚きつつも優しく触れる手に大人しく手を握られる。
カンタの親指の腹が俺の薬指を撫でた。
「大きくなったら、僕と結婚してくれる?」
突然のプロポーズに俺は益々困惑の渦に飲み込まれていく。
でも、この状況がデジャブのように感じるのは何故だろうか。
何かのドラマで見た場面と似ているのだろうか。
「やっぱり、覚えてないよね。俺の人生初めての告白だったんだけどな。」
「え?どういうこと?」
「あの時はシロツメクサで指輪作ってさ、薬指に結んだんだよ。いいよって言ってくれたミキちゃんと、本気で結婚するんだってその時は思ってた。」
そう言われて、触れられている薬指にシロツメクサの白い花がついている錯覚に陥る。
錯覚というよりは、これは記憶だ。
あれはいつだっただろう。
まだ小さくて、男も女も意識したことのないぐらいの、幼い頃の記憶。
どこで何をしていてもミキちゃんと俺を呼んで、常に一緒に遊んでいた男の子。
当時、俺は毎日一緒にいるその子といるのが楽しくて好きだった。
その好きに恋愛感情なんてものはなく、お気に入りの意味で好きだった。
いつものように遊んでいた時、花壇にシロツメクサが生えているのをその子が見つけてきた。
そして、俺に差し出してきて言ったんだ。
僕と結婚してくれる?って。
結婚の意味なんて知らなかった。
でも、親は結婚をして一緒にいるという認識だけはあり、俺は『いいよ』と肯定をした。
その男の子と一緒にいたかったから。
その子の名は、カンタ。
名前を聞き間違えていることにも気づかなかった頃の、紛れもないカンタだった。
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