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「いや、あの俺飲みに行くなんて言ってないですけど。」
「いいじゃん行こうよ。にしても変わってないね。面影残りまくりじゃん。」
「いや、だから人違いです。」
全く聞く耳を持とうとしない相手に、俺はため息が出そうだった。
早く帰りたくて逃げ出してきたのに、これでは終電を逃してしまう。
「俺のこと覚えてない?小学校まで一緒だった神田だよ。カンタって呼んでくれてたじゃん。」
意気揚々としているその人の顔を見ながら、俺は20年近く前の記憶を遡る。
かなり薄れつつある小学生の記憶を思い起こしていると、はっと思い出す。
女の子に混じって俺に向かって可愛いと言っていた、神田という男の子を。
確か保育園も一緒で、幼少期の聞き間違いで神田をずっとカンタだと思い込み、気づいたその後もあだ名のようにカンタと呼んでいた。
ただ俺の知っているカンタはこんな大男ではなく、俺よりも身長の低い、それこそ女の子と変わらないぐらいの小さい男の子だったはずだ。
「あの身長の低かったカンタ?」
「そうそう。小学生の時は全然伸びなかったからね。今はミキちゃんより大きくなっちゃった。」
目を細めて人懐っこい笑みを浮かべるカンタは、当時の面影をどことなく残しているように見えた。
昔もよく笑っていて、人懐っこい印象がある。
そんなカンタは私立の中学に行ったので、公立に行った俺とは別になり、そのまま疎遠になっていた。
それなりに仲は良かったとは思うが、俺をオモチャのように扱う女の子と一緒になって可愛いと言っていたのが鬱陶しくて、高学年になる頃には俺は違う子とつるむようになっていた。
こんな形で再会するとは夢にも思わなかった。
すっかり大人になったカンタは人懐っこい笑み以外はあまり面影を残しておらず、カンタが気づかなければ他人として別れていただろう。
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