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「これ、一口だけでも飲んでみる?ここのカクテル美味しいんだよ。」
そう言ってソフトドリンクで済ませていた俺にお酒を差し出してきた。
話が盛り上がって気分が乗っていたこともあり、少しだけならと勧められるがままに口にする。
「ホントだ。美味しい。ここはご飯も美味しいし、いいとこ知ってるんだな。」
「飲みにはよく行くからね。ミキちゃんは行かないの?」
「俺は付き合い程度かな。強いわけじゃないから、飲みたいとも思わないし。」
「そっか。じゃあ今日は付き合いで?」
「そうだな。同僚が俺の名前を使って合コンセッティングしたから、無理やり。途中で逃げ出して帰ってたとこだよ。」
先ほどの合コンを思い出しながら、もうそろそろ解散して、人によっては持ち帰っているだろうと考えながら再度カクテルを口に含む。
そこで、それがただ勧められただけであったことを思い出す。
「ごめん、つい飲んじゃった。」
「いいよ。気に入ったならそのまま飲んで。俺は違うの頼むから。それも飲んでみる?」
「俺は強くないって言ってるだろ。」
「味見だけだよ。全部って訳じゃないから。それより無理やりってことは、合コンとかあんまり行かないの?」
カンタは次のを頼みつつ話を戻すので、俺はそのカクテルを有り難く頂戴することにした。
「全然。正直、女の子苦手なんだよ。かといって男が好きなわけじゃないけどな。」
「そうなんだ。どうして苦手なの?」
「学生の頃、可愛いって言われて女の子みたいにメイクされたり、セーラー着させられたりして、何かトラウマなんだよね。それ言ったらそうだよ、カンタも昔よく俺に可愛いって言ってたよな。あれ嫌だったんだからな。」
「ごめんね。口に出さずにはいられなくて。でも今でも思うよ、可愛いなって。」
片肘で頬杖をつき、柔らかく笑みを浮かべてこちらを見るカンタに俺はあからさまに顔を顰めて嫌悪を示す。
それにカンタは吹き出すようにして笑った。
「そんなに嫌そうな顔しないでよ。」
「お前人の話聞いてたのかよ。嫌だって言っただろ。」
「ごめんごめん。もしかして、それが理由で俺避けられてた?」
「今更気づいたのかよ。俺やめろって言わなかったっけ?」
「言ってたかなぁ。ごめんね、その辺あんまり覚えてないや。ただ、その時は言いたくて仕方なくて。」
「気持ち悪いな。俺は男だぞ。」
「知ってるよ。誰よりも男気があったのも知ってる。ミキちゃん、可愛い顔しながら腕っ節強かったもんね。悪口言ってきた子を容赦なく殴ってたよね。」
そう言われてそんなこともしていたなと思い出す。
小さい頃から俺の女顔は健在で、いじめっ子に『スカート履けよ女男』とか言われてむかついた俺は、容赦なく返り討ちにしていた。
だから俺は女の子にオモチャにされながらでも虐められたことはないし、どちらかといえば友達は多かったほうだ。
「あの時は子供だったからな。気に食わなかったら言い返すのは今も変わってないよ。」
「そんな感じする。これも飲んでみる?」
新しく届いたカクテルをカンタは再度差し出してくるので、俺はそれも素直に口に運ぶ。
それもやはり美味しく、付き合いでしか飲んでこなかった酒だったが、進んで飲みたくなるほどである。
おかげで俺はカンタに勧められるがまま酒を口に運び続け、セーブしていたことも忘れて話が盛り上がるままに飲み続けた。
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