第一話 あの日の約束

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「子供の頃はさ、拳で全部どうにかなってたから、本当に楽だったなって思うんだよね。」 酔いが回った俺はいつしかそんなことを口走り始めていた。 「今も何か言われたりするの?」 「女みたいな顔だなとか、そういうのはたまに言われるけど、それは別にいいんだよ。さすがにこの歳になったら聞き流せるようにはなったけどさ、朝の電車は本当に地獄なんだよ。女の子はもっと大変なんだろうなって、つくづく思う。」 「それ、痴漢ってこと?」 眉間にしわを寄せるカンタの顔を見て、自分が口を滑らせたことに気づく。 酒が入るとどうも思考が鈍って、いらないことを口走ってしまう。 思った以上に酔いがきているのかもしれない。 「そんな、毎日じゃないから。たまにだよ。」 「たまにって1回じゃないの?今まで何回されたの?」 そこでもまた俺は口を滑らせてしまい、カンタの眉間のしわは深まる一方だ。 男のくせにと思われているのかも知れないと思ったら、逃げ出したい気分だった。 「ごめん、忘れて。酔ってていらないことを口走ってるだけだから。済んだことだし、気にしてないから。」 「俺が気にする。ミキちゃん家どの辺?」 「○○だけど、それが何?」 「会社この辺だって言ったよね?じゃあ7時半ぐらいの電車に乗るよね?」 「そうだけど、それがどうしたんだよ。」 「俺が朝一緒に乗る。俺が守ってあげる。」 「はぁ?何言ってんだよ。カンタ乗る駅違うんじゃないの?」 「一駅前だけど、俺が迎えに行くよ。降りる駅は一緒だから一緒に行こう。」 「何言ってんだよ。俺が言えた義理じゃないけど、お前も酔ってんじゃないの?」 「酔ってないよ。俺は強いから。ミキちゃんが痴漢に遭ってるって知ってほっとけると思う?」 「俺は男だから。そんな守って貰うほどのことでもないよ。どうせ、乗ってる時間なんて知れてるし。」 「男とか時間とか関係ないよ。それに俺が我慢できない。ミキちゃんに触る奴がいることが許せない。」 カンタは何故か腹を立てているようで、少し興奮気味に見える。 俺はこれ以上いらないことを口走る前に帰ったほうが良さそうだ。
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