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「絶対いつかぎゃふんと言わせてやるからな!」
俺はあいつの背中に言葉を投げ捨てた。
実力も伴わないのに口先だけはいつも挑戦的な俺に、いつも付き合ってくれていたあいつが、諦めたように背を向けて行ってしまった。その背中は寂しそうに見えた。それが俺があいつに放った最後の負け犬の遠吠えだった。
分かってる、分かってるよ…。
俺は手をぎゅっと握った。
俺だって悔しいんだ。
よく出来たあいつの隣で、いつも口だけは挑戦し続けた。あいつは面白がって聞いてくれていた。実力としてのあいつと俺との圧倒的な距離が、逆にふたりの距離を縮めていたと思う。
しかし俺はあいつの隣を歩くことを…諦めてしまったんだ。
少し用事が出来てしまった。ただそれだけだ。しかしそれはふたりの距離を決定的に変えてしまったんだ。
ただでさえあいつに追いつけない俺がする寄り道。あいつは俺を諦めた。
でも俺は諦めちゃいない。絶対絶対あいつに追いついてみせる。あいつはいつだって俺の追いかける背中だった。あいつは俺の諦めの悪さを全然分かっちゃいない。
背を向けて歩く俺ら。
俺に遠慮しなくなったあいつの背はどんどん離れて行ってしまって、俺は振り向いてあいつの背を見送ることしか出来なかった。けど、あいつは知らないだろう。その背に俺が拳を向けていたことを。いつか見てろよ。と。
久し振りに会ったあいつは目を丸くした。
「どうだ、驚いたか!?」
俺は踏ん反り返って言ってやった。
「ぎゃふんと言いたくなっただろ。」
あいつはふっと気の抜けたように笑うと
「やっと負け犬の遠吠えが吠えれる場所まで来たんじゃない?」
そう言った。
俺はニカっと笑った。
「絶対いつかぎゃふんと言わせてやるからな!」
俺はあの時の言葉をもう一度笑いながら言い放った。
あいつは笑って
「あぁ、生きてるうちに頼むよ。」
と返した。
俺は絶対あいつをぎゃふんと言わせてみせる。
(ぎゃふん)
何かが聞こえた様な気がした…
気のせいか
あいつが笑っていた。
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