愛子と鬼二

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愛子と鬼二 愛は平和ではない。 愛は戦いである。 武器のかわりが誠実であるだけで、 それは地上における、もっともはげしい、きびしい、 自らを捨ててかからねばならない戦いである。 我が子よ。このことを覚えておきなさい。 (ネール元インド首相の娘への手紙) 横浜の山の手に、人もうらやむほどの豪邸がある。五億かけた、十五部屋もある豪邸である。家の主は団鬼五といって、日本のSM小説の第一人者である。氏は二十年にわたり、日本のSM小説の第一人者として、嗜虐的官能小説を執筆してきた。また、小説以外にも、エロ出版社をつくったり、SM映画製作、緊縛写真集発行など、SMに関する事は、ありとあらゆる事をやってきた。それらが、売れに売れて、巨万の富を手に入れたのである。それで、その金で横浜の山の手に、大邸宅を建てたのである。 鬼五は、再婚の美しい妻と、その一粒種の一人息子の三人で、豪邸で優雅に暮らした。 一人息子は鬼二といった。それは、鬼のように非情に女を責め抜く男に育って欲しいという父親の願望から、そう名づけたのである。だが、鬼二は、この名前のために、どんなに子供の頃から、からかわれてきたことか。 ある朝の登校時の風景である。 爽やかな朝の日差しの中、元気一杯の生徒達が、三々五々、愉快にお喋りしながら、学校へ向かって歩いている。だが、彼らと離れて、一人黙って歩いている少年がいた。少年には孤独の陰りがあった。三人の生徒が、後ろから少年を囃し立てている。 「おーにじ。おにじ。お前の父ちゃん、変態作家」 あっははは、と、笑いながら、三人は校門まで、少年を囃しつづけた。 少年は、かれらのからかいを無視し黙って黙々と歩いた。 教室に入って席についても、少年は、誰と話すでもなく、何をするとでもなく、じっとしている。すると、さっきの三人が、少年の所にやってきた。 一人が両手を後ろに廻して、手首を重ね合わせた。そして身をくねらして、眉を寄せ、 「許して。許して」 と、女の声色を使って、責められる女の真似をした。 二人は、それを見て、あっははは、と、腹を抱えて笑った。 少年は、黙ってうつむいてじっと耐えていた。 少年は、クラスでも孤独な生徒で、友達も一人もいなかった。 その時、始業のベルがなり、ガラリと戸が開いた。 担任のきれいな女教師が入ってきた。 三人は、蜘蛛の子を散らしたように、すぐに自分の席にもどった。 女教師は、逃げる三人にキッと鋭い視線を向けた。 「起立」 「礼」 「着席」 彼女は、京子といい、このクラスの担任で、国語を教えていた。 「みなさん。前回の授業で、作文の宿題を出しましたね。書いてきましたね」 「はーい」 皆は、元気に答えた。 彼女は、前回の授業の時、作文の宿題を課したのである。題は、「私の父」である。 「では、今日は、皆さんの書いた作文を朗読してもらいます」 そう言って彼女は、教室を見回した。 鬼二は左の列の三番目だった。 「では、左の列の前の人から、読んで下さい」 左の列の一番前はA子だった。 「では、A子さん。読んで下さい」 「はい」 A子は立ち上がって、滔々と読み出した。 「私の父は花屋です。私の店にはきれいな花が一杯あります・・・」 読み終わって皆は拍手した。 「では、次。Bさん」 教師は微笑んで促した。 二番目のBは立ち上がって朗読しだした。 「私の父は牧師です。私の家では食前に必ずお祈りをします・・・」 読み終わって皆は拍手した。 教師も微笑んだ。 「では次。団君。団鬼二君」 呼ばれて鬼二はためらいがちに立ち上がった。 そして読み出した。 「僕の父はSM作家です。世間では僕の父を日本の恥、国辱といって、大人は、父の本を健全な青少年を堕落させる有害図書と言っています。近所の人達は父のことを有害図書を世に出しつづけて、それで儲けた金で大邸宅を造った極悪人だと言って物も売ってくれません。僕も父の本を読んでみて、そうされても仕方がないと思いました。しかし、僕は、あらゆる悪罵を浴びせられても一人で世間と戦っている父を尊敬しています。僕の父は・・・僕の父は・・・日本一のSM作家です」 言い終わるや鬼二はわっと机に泣き伏した。京子は慌てて教壇から駆け下りて鬼二の方に駆け寄り、そっと鬼二の肩に手をかけた。 「いいのよ。鬼二君。すばらしい作文だったわ。決して引け目に思ったりする必要なんかないのよ。先生、聞いてて涙が出るほど感動したわ」 はい、鬼二君、涙をふいて、と言って京子は鬼二にハンカチを渡した。鬼二はうつむきながら涙をぬぐった。京子はキッとした表情で顔を上げ、しんと静まり返っている生徒達を見渡して、強い主張のこもった声で、言い聞かせるようにキッパリ言った。 「皆さん。いいですか。先生、一部の生徒が鬼二君をからかっているという噂を聞きました。それが誰かを調べる気はありません。でも、先生、はっきり言いますが、その人たちは間違っています。職業に貴賎はありません。物事を表面的に見ることは思慮の浅い短絡的な考え方です。これからは決して鬼二君をからかうようなことはしてはいけません。いいですね」 学校がおわった。 一人の少女が鬼二について来る。 「鬼二君。今日の作文、とっても立派だったわ。私、感動しちゃった。私でよかったらお友達になってくれない」 鬼二は、クラスでもへそまがりで友達など一人もいない。鬼二は黙ったまま、さめた一瞥を与えた。 「私じゃダメ。そうよね。クラスにはもっときれいな子、いっぱいいるものね」 「さびしいな。鬼二君、私のこと嫌いなのね」 「ああ。神様って不公平ね。きれいな人と、きれいでない人を作るんだから」 などと独り言を言っている。分かれ道に来た。 「私、嫌われても、鬼二君のこと好きよ。鬼二君が少しでも好意を持ってくれる日が来てくれるのを、私じっと待つわ」 (まーつーわー) と、感傷的に口ずさんでいる。 「それじゃ、また、あした学校でね」 と言って手を振って分かれようとした。 「ふん。同情しかできない、うすっぺら女め」 鬼二ははじめて、ポソリと呟いた。それを耳にした愛子はあわてて言い返した。 「鬼二君。ひどいわ。私、本当に純粋に鬼二君が好きなのよ。ひどいわ」 「ほーら。そうやってすぐムキになって腹を立てる」 「ち、違うわ。つい大声で言ってしまったけど、鬼二君の誤解だったからなの。あやまるわ。ゴメンなさい」 「ふん。本当に好きなら、誤解されてもそんなに怒鳴ったりしないさ。所詮おまえは上に立って見下ろしているんだ」 鬼二は続けてしゃべった。 「それに何だ。一人でペラペラ好き勝手なこと吐いて。本当に女が男を好きになったら静かになるはずだ。軽口ケーソツ女」 「ち、違うわ。私、本当に鬼二君のことが好きなの」 愛子は力を込めて訴えた。 「お前は同情を自覚してないだけだ。お前はクラスのみんなと友達だ。俺は友達なんか一人もいやしないし、欲しくも無いヒネクレ者だ。おまえはクラス一きれいなのに、きれいでない、なんてみえすいた卑下自慢している。本当にブスで悩んでいる女は一人で暗くなっている。C子がそうじゃないか。いっつもポツンとしている。それに比べてお前は休み時間は友達とワキアイアイだ。俺は顔も良くないし、性格もヒネくれている。お前ならいくらでもいいボーイフレンドが出来る。お前がオレに好意を寄せる理由に同情以外の何がある」 「ち、違うわ」 と、言いつつも愛子の声は震えていた。指摘されたことは、実感として愛子の胸に刺さった。 「本当に好きなら、相手の男の言うことには何でも従えるはずだ。お前は俺に従うことなんか出来ないだろう」 「で、出来るわ。鬼二君の言うことなら何でもするわ」 自分が純粋である、という誇りにしがみつく心が愛子にこんなことを言わせた。 「じゃあ、こっちへ来な」 と鬼二はグイと愛子の手を引いた。 「あっ。どこへ行くの」 「お前は今、俺の言うことには何でも従う、と言ったじゃないか」 鬼二は愛子を連れてしばらく歩いた。 古びた廃屋のバラックの前で鬼二は立ち止まった。 鬼二は愛子をドンと押した。 愛子は押されて躓いた。 鬼二は冷めた目で愛子を見ている。 「さあ。脱げよ」 「えっ」 愛子は一瞬、我が耳を疑った。 「な、何で私が今、ここで脱がなくちゃならないの」 愛子は声を震わせて聞いた。 「お前はさっき、俺の言うことには何でも従うと言ったじゃないか。SMは悪いことじゃないと言ったじゃないか」 鬼二は相手の矛盾を責めるように、突き放した口調で言った。鬼二は父親からしっかりSMの遺伝を受けていた。父親の書斎にあった、女が裸で縛られている写真をみた時は強烈な興奮を催した。それ以来、鬼二は父親がいない時、こっそりと父親の所蔵するSM写真集を見るようになった。鬼二は自分の性癖に関して引け目を感じつづけて生きてきた。自分がSM的性癖を持っていることは、心の中に封印して、一生人に悟られずに生き抜こうと思った。そしてSM的性癖を持っているかどうかは、本人が言わない限り人に悟られること無く、隠しおおせるものなのである。だから愛子は鬼二がSM的性癖を持っているとは思ってもいなかったのである。 おびえてオロオロしている愛子に鬼二は罵るように言った。 「ほらみろ。お前の、好き、だの、純粋、だのなんて自慢してるものなんて全て贋物じゃないか」 黙ってモジモジしている愛子に鬼二はつづけて言った。 「もう二度とオレにつきまとうな。ウソツキ女」 鬼二は吐き捨てるように言って、クルリと背を向けてスタスタ歩き出した。ざまあみろ、鬼二は愛子の欺瞞を証明した優越感でいっぱいだった。人間なんてあんなものさ、と、軽蔑の対象は拡大した。 「ま、待って。鬼二君」 背後から愛子の力強い声が聞こえた。鬼二は足を止めた。どうせまたヘタクソな弁解を思いついたんだろう、無視しようかと思ったが、いやそれよりもヘタクソな弁解の欺瞞性を完膚なきまでに潰してやろうという気持ちが勝って、重たそうに振り返った。 「何だよ。しつこいな。何の用だよ」 鬼二はうるさそうに言った。愛子はしばし俯いて指をモジつかせていた。が、 「ぬ、脱ぐわ」 と、蚊の鳴くような声で言った。恐怖のため、体がワナワナ震えている。鬼二は、よくそこまで決断できたな、と、少し見直す気持ちが起こった。が、愛子は俯いたまま何も行動を起こせないで立ったままである。ははあ、これはきっとそこまで言えば同情して本当に脱ぐことを要求することは出来ないだろう、と、計算したんだろう、と思った。そう思うとチャチな計算家の化けの皮を剥いでやれ、という嗜虐的な気持ちが起こってきた。 鬼二は、部屋の隅にあった肘掛けの付いた事務用の回転椅子を持ってきて、ドッカと座った。愛子も、この賭けには十分な確信を持てなかったのだろう。震えながら祈るように指をギュッと握っている。 「ほら。どうした。脱ぐ、と言っといて、なんで脱がないんだ」 畳み掛けるように鬼二は言った。しばし待っていても愛子はどうしたらいいのか分からない、といった様子で棒立ちしている。鬼二は、勝ち誇ったように、 「フン。どうせ口先だけだろうと最初から思っていたよ。じゃあ、あばよ」 と言って立ち上がって背を向け、去ろうとした。 「ま、待って。脱ぎます」 愛子が引き止めるように言った。この女はつくづく自分の精神を傷つけられることを嫌がるエゴイストだな、と思った。二度目のコトバである。今度は本当に脱ぐかもしれないと思って、鬼二は再び椅子に座って、非情な視線を愛子に向けた。 「ほら。どうした。脱ぐ、と言っといて何で脱がないんだ」 鬼二に畳み掛けられて、愛子はようやく決心がついたらしく、震える手でセーラー服の上着を脱いだ。発育中の胸を覆うグンゼの子供の下着の延長のような清潔な白のブラジャーが顕わになった。愛子は羞恥のため、思わず胸を覆った。生まれてはじめて男に下着を見られる恥ずかしさのため、反射的に手が動いたのだ。 愛子はクラス委員長で、成績もクラスで一番だった。クラス会議で、「近頃、一部の女生徒が伝言ダイヤルなどで風紀の乱れた遊びをしている、という噂を聞きました。伝統ある我が校にそのようなことをする生徒がいるのはとても嘆かわしいことだと思います」と、クラス会議の時には決然と注意してきた。それが今では自らの手で、二人きりの廃屋の中で、男子生徒の前で不良女生徒のように自らの意志で服を脱いでいるのである。そう思うと愛子は、いっそう恥ずかしくなった。 「どうした。何をしている。それじゃ裸とはいえないぞ。スカートも下着も、着ている物は全部脱ぐんだ」 胸の前で両手を交差させて、震えている愛子は鬼二に恫喝的な口調で言われて、震える手でスカートのチャックを外し始めた。鬼二は思わず生唾を飲み込んだ。が、父親と同じようなことをしている自分に反抗期の嫌悪感が起こった。それを鬼二はこんな理屈で正当化した。 「自分は人間の欺瞞の化けの皮を剥いでやる、という高尚な目的のため、こんな事をしているのであって決してスケベだけを目的とした父親とは違うのだ」 鬼二は心の中でそう自分に言い聞かせた。  スカートがパサリと落ちるとグンゼの純白なパンティーが目に飛び込んできた。まだウェストも十分な引き締まりをしていない発育中の肉体であっても、これから見事な発育が保証されているような均整のとれた美しいプロポーションだった。 「さすがクラス委員長に選ばれるだけあって、約束はちゃんと守る誠実な性格なんだな。だが、まだ、それじゃ裸とはいえんぞ。ブラジャーもパンティーも靴下も靴も全部脱ぐんだ」 言われて愛子は哀しげな表情で恐る恐る靴下を脱ぎ、ワナワナ震える手でブラジャーをとった。たるみのない、発育中の胸が顕わになった。鬼二は、 「ほー」 と言って、 「クラス委員長の胸を見たやつは俺だけだな。そのうち、その部分は、女の何とかホルモンとやらの作用でどんどん大きくなっていくんだな。委員長は、どのくらいまで大きくなるやら」 野卑な揶揄をされて、愛子は真っ赤になって思わず両手で胸を覆った。 「ほら。とっとと、最後の一枚も脱ぐんだ。俺の言うことには何でも従う、と言ったじゃないか。あれはウソだったのか」 怒鳴りつけるように言った。 「ゆ、許して。お願い。これだけは、許して」 愛子はとうとう耐えられなくなって、すがるような口調で哀願した。目が涙で潤んでいる。いくら約束とはいえ、女が絶対、男に見せてはならない所をどうして同じクラスの男に見せられよう。愛子は腿をピッタリ合わせ、手で胸と下着を覆いながら、目からこぼれた涙の顔を鬼二に向けて哀願した。 「お願い。鬼二君。許して」 「フン。泣けば許してもらえると思っているのか。ちやほや育てられた、いいとこのお嬢様は、始末におえないな。鬼に泣き落としなんか通用しないんだよ。とっとと脱ぎな」 愛子は今まで思ってもいなかった鬼二の、まさに鬼のような非情な性格を知らされた驚き、と同時に、もうどう訴えてもダメだと観念し、パンティーをソロソロと下ろして、足から抜きとった。愛子は覆うもの一枚ない丸裸である。まだ生えそろっていない、そこに鬼二の冷たい視線が注がれていると思うと愛子は耐えられなくなり、手で羞恥の二ヶ所を必死に覆って、くなくなと座り込んでしまった。 「誰が座っていいと言った。立ちな」 鬼二が命じても愛子はぺったりと座ったまま、返事をする気力も持てないといった様子で両手で胸と秘部を覆ってじっとしている。鬼二は思いついたように、愛子の回りに散乱している制服やカバンを掻き集めて、引剥ぎのように取り上げて、座っていた椅子の横の古びた事務机の上に載せた。 「な、何をするの。鬼二君」 訴える愛子を無視して、荷物の入ったスポーツカバンも取り上げた。 さーてと、何をするかな、などと言いながら鬼二は、取り上げた愛子の清楚なセーラー服を無造作につまみ上げた。セーラー服。いつもは一時たりとも男の視線を惹きつけずにはおかない、この陽光の下ではじけるような健康的な美と魅力を放ちつづけている男の崇拝物は、今ではうす暗い廃屋の中でぶらりと吊り下げられて、いつもの活力を失ってしおれた朝顔のように物寂しげな哀感を呈している。触れることさえ許されない、憧れのものを自由に出来るようになった、うれしさ、から鬼二は服の隅々まで点検していたが、だんだん興奮してきてついに鼻を制服に押し付けた。 「あっ。い、いやっ。やめて」 恐怖と羞恥から必死で二ヶ所の秘所を押さえて座り込んでいた愛子が思わず、服にしみ込んだ体臭を嗅がれる恥ずかしさから、顔を赤くして叫んだ。鬼二は愛子の哀願などどこ吹く風と無視して今度は紺色のスカートを手に取った。愛子は、 「いやっ。いやっ」 と、さかんに顔を振るが鬼二は能面のような無表情でスカートに鼻を強くあてがった。愛子は出来ることなら鬼二の前に駆け寄りたいくらいだったが、二ヶ所の秘所を手で必死に覆っているため動けない。蛇ににらまれた蛙のように竦んでしまっている。 「お願い。鬼二君。許して」 涙に潤んだ瞳を向けて哀願する愛子を無視して鬼二は、臭いを貪り嗅いだスカートから一旦顔を離し、口元を歪めてせせら笑った。 「ふふ。さすが美人クラス委員長だ。体臭もきわめて自然に男を惹きつける健全そのものだ。美人ってのは全てが綺麗なんだな」 じゃあ、これもそうだろうな、と言って純白のパンティーを摘み上げた。鬼二がするだろう、恐ろしい行為が愛子の心を震撼させ、愛子は恐怖のあまり鬼二の方を向いて両手をそろえて地に頭を擦りつけた。下着の匂いを嗅がれることなど奥手で清純を絵に描いたような性格の愛子にどうして耐えられよう。 「お願い。許して」 愛子は胸と秘部を手で押さえながら言った。 だが鬼二は愛子の訴えなど無視して、縄を持って愛子に近づいた。 鬼二は俯いて二ケ所の秘所を手で押さえている愛子の両腕を掴んでグイと後ろにまわし、後ろ手に縛り上げた。 「あっ。な、何をするの。鬼二君」 愛子の問いかけを無視して鬼二は淡々と、縛っていって、瞬間強力接着剤、アロンアルファを結び目にたっぷり塗りつけた。ふふ、もうこれで絶対はずれないさと言いながら縄尻を梁に取り付けられている滑車に通した。 「そーらよ」 と言いながら、鬼二は縄を思い切り引っ張り出した。 「あっ。いやっ。やめて」 愛子は叫んだが、鬼二の引く力にはかなわず、だんだん膝が伸びていった。 愛子は膝をピッタリと閉じ合わせながら必死で抵抗した。 だがついに愛子は完全に立たされてしまった。 鬼二は縄をしっかりと机の脚の一つに結びつけた。 これでもう愛子は逃げられない。鬼二は仕事が済むとドッカと愛子の前で椅子に座り込んで、打ち震えている愛子の体を隅々まで見てやろうというような視線を投げかけている。 「み、見ないで。鬼二君」 まだ生まれて一度も見られたことのない花も恥らう乙女の一糸纏わぬ裸を同じクラスの男子生徒に見られる辛さにどうして耐えられよう。秘所を覆っていた手を後ろで縛られて、隠す術を失っても鬼二の刺すような視線から、最後の砦は何としても守ろうと、ピッタリ腿をくっつけて必死に腰を引いている。そして女の体はそうすることによって最羞の部分はギリギリ隠せるのである。 鬼二はそんな愛子の姿をニヤニヤ笑いながら眺めた。 愛子は必死で女の最羞の部分を隠そうと腿をピッタリつけ、膝を寄り合わせている。そしてそうすることによって女のその部分はギリギリかろうじて隠すことが出来るのである。この体の構造は女にとってかえってつらいものである。裸になれば、すべてが見られてしまうが、それは不可抗力としてわりきって観念することが出来る。見られても仕方がないと諦めがつく。しかし裸にされて手の自由を奪われても足を撚り合わすことによってギリギリかろうじて隠せる以上、女は男の視線からそこを守ろうと苦しい努力をし続けなくてはならない。その、女のいじらしい姿が男の嗜虐心を刺激するのである。 何とか最羞の部分は守ろうと必死で腿を寄り合わせている愛子の苦闘を、薄ら笑いで見ていた鬼二が、よっこらしょ、と大儀そうに立ち上がってパンティーを持って裸で吊るされている愛子の横に立った。愛子の腿をつついて、 「ほら。パンティーを履かせてやるから足を上げな。脚をモジつかせるのはつらいだろ」そう言って、脚をモジモジ寄り合わせている愛子の腿をつついた。唐突に鬼に情けをかけられるようなことを言われて愛子はとまどった。パンティーを履けるのなら、これほどの救いはない。自分で履くべきパンティーを人形のように他人に履かされる屈辱はあってもそれは、履かされる時のわずかな一時だけであり、履いてしまえば後は安全である。パンティー一枚の姿とて恥ずかしいが、それでも一糸も許されない全裸よりはくらべものにならないほどましである。ほら、足を上げなよ、と言って鬼二は愛子の右の足首を掴んだ。 「あ、ありがとう。鬼二君」 鬼二がなぜ仏心を起こしたのか分からないことには一抹の不安があったが、鬼二も自分のやっている、余りにもひどいことに罪悪感が起こったのだと、性善説を信じる愛子は解釈した。愛子は履かされている最中、最羞の部分を見られないよう、今まで以上にピッタリと腿をくの字にして重ね合わせながら、恐る恐る鬼二につかまれている右足を上げた。鬼二は約束通りパンティーを足に通すと、ほら、こっちも上げな、と言って、左足をピシャリとたたいた。愛子が左足を上げると鬼二は左足にもパンティーを通した。そして鬼二はするするとパンティーを上げていった。愛子はこれは本当の情け心だと確信して、他人に目の前で下着を履かされる恥ずかしさは感じつつも仏心に対する感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。 「ありがとう。鬼二君」 と目を潤ませて言った。パンティーはするすると上がって行き、愛子はもう安心だとほっと心の内で胸を撫で下ろした。が、ちょうど膝と腿の付け根の中間の位置でその動きが止まった。鬼二はパンティーから手を離し無言のまま立ち上がって椅子に腰掛けた。 「お、鬼二君」 愛子は恐る恐る言った。 「何だよ」 鬼二は五月蝿そうに言った。 「ま、まだ途中よ」 「何が」 「ちゃ、ちゃんとはかせて」 「ちゃんとはいてるじゃねえか」 「ちゃんと上まであげて」 「まあ、そうあせることもないじゃないか。現代人は何でもあせって、もっと立ち止る心のゆとりが必要だって先生も忠告してたじゃないか」 「お願い。鬼二君。上まであげて」 鬼二は愛子の後ろに回った。 「お尻の割れ目がピッタリくっついて、かわいいぜ」 「裸よりこっちの方がずっとセクシーで芸術的だぜ」 鬼二はそんな揶揄をした。 「見ないで。鬼二君。お願い」 「ああっ。鬼二君。これ以上私をみじめにしないで」 「お願い。はかせて。お願い」 愛子は必死で哀願したが、鬼二はどこ吹く風と無視して、 「はは。はきかけてる、というより、ずり下げられているという感じだな」 などと揶揄した。 しかし、あまりにも愛子が叫びつづけるので、 「ギャーギャーうるせーな。ほら。はかせてやるよ」 と言って鬼二はパンティーを腰まで上までしっかりはかせた。 「あ、ありがとう。鬼二君」 鬼二は愛子の感謝の言葉をよそに自分のカバンから、何かをとり出した。 何かの動物がモソモソ気味悪く動いている。 「な、なあに。それ」 愛子は声を震わせながら聞いた。 「オレのペットのタランチュラさ。名前はタランさ。どうだ。かわいいだろう」 「そ、そうね。か、かわいいわね」 と言いながらも愛子は気味悪そうに目をそむけている。鬼二はしばらく、気味の悪い蜘蛛を手の甲に載せて、蜘蛛のゆっくりした脚の動きを眺めていたが、そっと掴むといきなり愛子のパンティーの中に入れた。 「い、いやー」 とっさに愛子は驚天動地の悲鳴を上げた。モゾモゾと気色の悪い生き物がパンティーの中を這い回っている。が、パンティーの縁のゴムのため、蜘蛛はパンティーの中から出ることが出来ない。 「とって。お願い。とって」 愛子は体をブルブル震わせながら叫んだ。 「なんだ。かわいいんだろ。なんでイヤなんだ」 「お、鬼二君。許して。本当は私、ものすごく気味悪いの」 モゾモゾと気色の悪い毒蜘蛛がパンティーの中を這い回っている。が、パンティーの縁のゴムのため、蜘蛛はパンティーの中から出ることが出来ない。 「お、お願い。鬼二君。とって」 鬼二は酷薄な目で愛子を眺めている。 「蜘蛛をとってやってもいいぜ。ただし、とったらオレの大事な友達のタランは殺すからな。さあ、どうする」 「お願い。やめて。鬼二君。そんな人間の心をもてあそぶような事・・・」 「人間の心をもてあそぶ、だと・・・。お前は動物愛護の精神がないから、鍛えてやってるんだ」 鬼二はつづけて言った。 「蜘蛛だって生き物なんだぞ。蜘蛛なんてかわいそうな生き物だな。みんなに嫌われて・・・。まるでオレみたいだな」 鬼二はそんな事をボソッと呟いた。 「お、お願い。鬼二君。許して」 愛子が何度も繰り返して、許しを求めつづけるので鬼二は、チッと舌打ちして立ち上がった。 「仕方のないヤツだ。じゃあ、とってやるよ」 鬼二は愛子のパンティーの中から蜘蛛を取り出してカバンの中に入れた。 「あ、ありがとう。鬼二君」 愛子は嗚咽しながら言った。 「ふふ。これでおわりだと思ったら大間違いだぜ」 鬼二は不敵な口調で言った。 「お願い。鬼二君。許して。もうこんな変態じみたこと」 「変態じみたこと?とは何て言い草だ。ほらみろ。やっぱり本心ではSMを軽蔑してるんじゃないか。それに俺の言うことには何でも従うと言ったじゃないか。うそつき女」 鬼二はつづけて言った。 「こんなウソを平気でつく風紀委員長だからな。ご本人の所持品も調べておく必要があるな」 と言って鬼二は愛子のカバンを開けた。 「あっ。い、いや。やめて」 鬼二は丹念に一つ一つ取り出して調べ出した。 「ほー。さすがはクラス委員長だけあっていかがわしい物はないな」 鬼二は数学のテストの答案を見つけた。 「すげー。この前の数学のテスト、100点じゃねえか」 鬼二は歓声を上げた。それは二週間前行われたテストで、採点されて、今日返された答案だった。 「俺なんか35点だぜ。先生も、最後の問題は東大で出題された入試問題だから出来なくても悲観しなくていいって言ってたほどの問題だぜ。数学の秀才の哲也でさえ解けなくて悔しがってたのに。塾にも行ってないのにどうしてこんなに出来るんだろう。やっぱり脳ミソの質が違うんだな」 と鬼二は感心している。鬼二はノートを取り出してサラサラッとみた。 「すげー。物理のノートも化学のノートも完璧じゃないか。物理の湯川の授業は、早口で喋って気のむいた時だけ適当に黒板に乱雑に書くから、みんなノートしにくいって言ってるのに。どういうドタマの構造してるんだろう」 と鬼二はノートを見ながら感心している。 鬼二はカバンから携帯を取り出した。 そして送信メールを開けてみた。 その中に数日前、愛子が由美に送ったメールがあった。 「由美ちゃん。今度の数学の試験、がんばってね。分からないところがあったら、遠慮なく聞いてね 愛子」 由美は愛子の一番の親友である。 「ほー。博愛主義者なんだな。オレなんか、知ってることがあったら、誰にも言わないぜ。人が落ちこぼれることがオレの幸せだからな。最も、オレだけにわかる事なんか、何もないけどな」 と言って笑った。 そして今度は着信メールを見た。 由美からのメールがあった。 「へへ。愛子ちゃん。この間の数学の試験、見事に30点取っちゃった。私ってほんとバカね。チョーみじめ。愛子ちゃんは何点だった。由美」 「へー。あいつ、社会や国語はできるのに、数学はバカなんだな。オレでも35点はとれたぜ」 鬼二は携帯を操作して、こう書いた。 「由美。あなた、救いようのないバカね。私はもちろん、満点よ。あんなの、そうとうのバカでも50点は取れるわよ。あなたの場合、数学は勉強するだけ時間の無駄よ。もうあきらめなさい。きびしい愛子」 鬼二はこう書いて、愛子に見せつけた。 「お、鬼二君。そ、それをどうするの」 愛子は起こってきた一抹の不安に声を震わせながら聞いた。 もちろん、送信するに決まってるだろ。 「や、やめて。鬼二君。お願い」 鬼二は椅子にドッカと座って、おびえる愛子をしばしニヤつきながら眺めた。 「お願い。鬼二君。そんなメール、由美ちゃんに送信しないで。私はどうなってもいいわ。でも人はキズつけないで」 鬼二は無視して、笑いながら、「送信」と言って、ボタンを押した。 「ああー」 愛子は泣き崩れた。 ビビー。 しはししてすぐにメールの着信音が鳴った。 鬼二はそれを愛子に見せつけた。 それにはこう書かれてあった。 「愛子ちゃん。ひどい。あなたがそんな人だとは知らなかったわ。もうあなたとは絶交します。由美」 メールにはそう書かれてあった。 「お、鬼二君。ひどいわ。あんまりだわ」 そう言って愛子はクスン、クスンと泣き出した。 しばしもう何もする気力もなくガックリと項垂れていた愛子が、そっと口を開いた。 「お、鬼二君」 愛子は蚊の鳴くような声で言った。 「何だよ」 「テ、テストもノートも私のでよかったらいつでも貸してあげるわ。だ、だからもう許して」 鬼二は愛子の完璧なノートをパラパラっとめくった。 「ダメだこりゃ。俺みたいなサル程度の頭じゃ貸してもらっても分からねえや。こういうのを何とかに真珠って言うんだよな。いいぜ。借りても分からねえもん」 そう言って鬼二はノートを愛子のカバンの中にもどした。 「えーと。こういう諺を何て言うんだっけ。犬に真珠、だったっけか?サルに真珠だったっけか。国語も満点の委員長様、教えてよ」 と鬼二は愛子に質問した。 「し、知りません」 愛子は声を震わせて言った。 「そんなことはないだろう。こんな基本的な簡単なことわざ、秀才の委員長様が知らないはずないぜ。そーか。教えてもすぐ忘れるだろうから言うだけ無駄だと思ってるんだろうな。まさに、何とやらに真珠、ってやつなんだよな」 「ち、ちがうわ。そんなことけっしてないわ」 「じゃあ、何に真珠なのか、正確に教えてくれよ」 「ぶ、豚に真珠です」 と言って愛子はわっと泣いた。 「ああ。そうなの。確かに俺は頭が悪いよ。でも豚よばわりはちょっとひどいんじゃないか。ご自分が頭がいいからって、劣等性を豚よばわりするってのは」 「お、鬼二君。お願い。いじめないで。も、もう、これ以上のいじめ、わ、私、耐えられない」 と言って愛子はわっと泣いた。 「いじめてるのはそっちの方だろ。おれ、豚よばわりされてもう立ち直れないほど落ち込んでるんだ」 どうせ、オレは豚だよな、と言って、地面に這いつくばってブーブー豚のまねをした。 しばしもう何もする気力もなくガックリと項垂れていた愛子が、そっと口を開いた。 「お、鬼二君。いっしょに勉強しない。わからないところ教えてあげるわ」 鬼二は一瞬、「うっ」と喉をつまらせた。それは打算でない愛子の真心から出たコトバと直覚したからだ。みんながあこがれるクラス委員長と二人きりで手取り足取り、マンツーマンで勉強するなごやかな情景が瞬時にイメージされた。鬼二は一瞬、その安息の世界を求める気持ちに屈しそうになった。が、思春期の理由なき反抗心がすぐにそれをブチ壊した。「フ、フン。そんなママゴトみたいなこと出来るか。バカにするなよ。オレだってやる気を出せば人並み程度の成績くらいとれるぜ。ただ学校の勉強なんて無意味だと思うからやらないだけだ」 「ち、違うわ。一方的に教えるんじゃないわ。人に教えるのってすごく自分の勉強になるの。教えているうちに自分の考えの誤りが見えてくることが多いの。一方的に見下すんじゃないわ。私も勉強したいの」 「い、言うな。二度と言うな。そんな変な悪魔のささやきみたいな事。口が達者なヤツほどホンネとタテマエが違うんだ。今度いったら猿轡して喋れないようにするぞ」 鬼二のとりみだしように愛子は鬼二の本性を垣間見た思いからクスッと笑って言った。 「鬼二君はワルぶってるだけで根はとってもいい人なんだわ。素直になることが照れくさいからワルぶってるいるんだわ。鬼二君は本当はとってもやさしくて・・・」 鬼二はあわてて耳をふさいだ。 「い、言うな。そ、そんなデタラメは」 鬼二はブルブル震えている。 「じゃあ、どうしてそんなに取り乱すの。図星だからじゃない」 「だ、だまれ。こいつ。奴隷の分際で嵩にかかった言い方しやがって。ようし。喋れないよう猿轡してやる」 鬼二は愛子の口を無理やりこじ開けて愛子の白いソックスで猿轡した。ふっくらした頬っぺたにソックスが厳しく食い込んで、愛子は金閣寺の雪姫のように眉を寄せて、苦しげに顔を左右に振っている。 「へっへ。猿轡されて喘いでいる委員長の姿はこの上なく色っぽいぜ。これを写真集にして売ったらみんな買うだろうな。どうだ。自分の靴下の味は。猿轡されてると、そのうち涎が出てくるんだ。委員長の涎をたらす姿も楽しみだぜ」 やっぱりパンティーも下ろす必要があるな、と言って、パンティーのゴムに手をかけると愛子は、顔を振りながら、激しい抵抗を示して腰を引いた。愛子は眉を寄せながら、んー、んーと猿轡の中からコトバにならない声を出している。 「何だ。何が言いたいんだ。委員長殿」 愛子は哀しそうな目を鬼二に向けた。 「猿轡をとってほしいのか。そうだよな。猿轡されてたんじゃ何も言えないからな」 鬼二が言うと、愛子は黙っておとなしく肯いた。 「よ、よーし。じゃあ、とってやらあ。そ、そのかわり、証拠もないのに人の心を揣摩臆測するようなこと言ったら、すぐに猿轡して、二度ととらないからな。いいな」 と鬼二は強く念を押した。愛子は黙って肯いた。 「よ、よーし。じゃあ、とってやるけど、こう言うんだ『もう二度と証拠もないのに人の心を決めつけたりするようなことはしません』とな。言うか?」 愛子は黙って肯いた。 鬼二は緊張しながら猿轡を解いた。 鬼二が猿轡をとると愛子は息止め、から解放された潜水夫のように大きく何度も深呼吸した。 「お、おい。約束した言葉を言え」 と言われて愛子は誠実にそれをなぞった。 「私はもう二度と証拠もないのに人の心を決めつけるような言動は決してしません」 その声には強制されて、仕方なく、ではない、自分の意志が含まれているように聞こえた。 愛子はクスッとも笑わず、静止した表情でいる。 「よ、よーし。その言葉、決してやぶるなよ」 と鬼二は愛子の頬をつついて念を押した。 しばしの沈黙の時間がたった。 「もう勘弁してやる。縄をといてやる」 そう言って鬼二は愛子の縄を解いた。 鬼二は愛子に服をほおった。 愛子はブラジャーをつけ、制服を着た。 愛子はすぐに、由美へ謝罪のメールを送ろうとした。 だがメールの受信を開けてみると、鬼二が由美へ送ったメールはまだ未送信だった。 そして由美から来たメールの宛先は愛子自身になっていた。 着信音が鳴ったのは、自分の携帯から自分の携帯へメールを送ったために鳴ったのだ。 愛子は感動して鬼二を見上げた。 「鬼二君」 愛子は涙に潤んだ瞳を鬼二に向けた。 だが鬼二はしかめっ面してうるさそうな顔つきである。 「オレはもう帰るからな」 そう言って鬼二はカバンを持って歩き出した。 外ではいつしか雨が降っていた。鬼二は愛子を後ろに立ち去ろうとした。鬼二は傘を拡げた。すると愛子が後ろから声をかけた。 「待って。鬼二君」 鬼二は振り返って愛子を見た。 愛子はひしっと鬼二の手を掴んだ。 「あ、あの。私、傘もってないの。よかったら入れてくれない?」 だまって鬼二は愛子の目を見つめた。 「鬼二君。私、鬼二君の奴隷だから何でも言う事を聞きます。でも、私、鬼二君の傘に入りたいの。入れてもらえないかしら?」 鬼二は自分の心の中の氷が少し解けているのを悔しく感じた。 「入れよ」 鬼二はそっけなく言った。愛子は鬼二にひしっとしがみついた。 雨はその激しさを増した。傘は二人を雨から守るには小さすぎた。鬼二は愛子が濡れないよう傘を愛子の方へずらした。 「鬼二君。濡れちゃうよ」 「フン。おれは雨に濡れるのが好きなんだ」 激しい雨で鬼二の体はびしょ濡れになった。 二人はコンビニの近くを通った。鬼二はポケットから千円冊を出して、突きつけるように愛子に渡した。 「お、おい。お前はおれの奴隷でおれの言うことは何でも聞くんだろ」 「はい」 愛子は素直な口調で言った。 「じゃあ、それをやるから、コンビニで傘を買ってこい。いちゃいちゃ、くっつかれちゃ、迷惑でしょーがねえぜ」 鬼二は突き放したような口調で言った。 「はい」 と愛子は満面の笑顔で答えた。その瞳には涙が浮かんでいた。愛子は雨の中を急ぎ足でコンビニへ向かって走り出した。 平成20年12月21日(日)擱筆
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