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その日の電話を境に、路也のメンタルは荒れた。 未だ学生だった路也に、父は会社の内情を明かした事は無かったから、寝耳に水だった。 翌日、父に連絡を入れて真偽を確かめると、確かにそうだと言われた。どうやらここ3年程の事らしい。 「俺の婚約を利用したのか。」 『何れは親戚関係になるんだろう。構わないじゃないか。』 悪びれる様子も無く父がそう言い放った時、路也は目眩がした。 まさか資金援助が必要な程に業績の悪化した会社を、シレッと自分に継がせる気だったのかと寒気がした。 『お前なら立て直せるだろう。期待してるんだ。斐田さんもそう思ってるからこそ、便宜を図ってくれてるんだぞ。』 「...ふざけんなよ...何だよ、それ...。」 そう言いながら気がついた。まさか、この事があったから、真冬の路也への態度はあんな風だったのだろうか? 路也が、資金援助目当てで自分に番を申し込んだとでも思ったのか?いやでも、真冬の態度はそれ以前から...。 考える程に、わからなくて頭痛がした。 だが実家が真冬の家の世話になってきたと知った以上、路也の方から真冬との婚約の破棄を持ち掛けるのは不可能になった。 唇を噛み締めた時、スマホの通知音が鳴った。風悠からのLIMEだった。 ――お仕事お疲れ様。今夜も何時もの場所でね。―― そうだった。今夜は風悠とのデートの日だった、と路也は思い出した。 昨夜からこっち、実家と真冬の事に気を取られて、風悠の事をすっかり忘れていたのだ。 (どうしたら良い...。俺はもう、風悠が好きだ。今更、真冬となんて...。) 気持ちが追いつかない。 けれど、これだけはハッキリしている。 路也は、何れ実家に戻り真冬と結婚し番にならなければならない。 その為には、もうこれ以上風悠に関わってはいけない。早目に別れを告げなければいけないんだろう。 でも。 顔を見ると、とても切り出せなかった。 路也はもう、風悠が愛しい。手放せない、今更手放したりなんかできない。 けれど、それは許されないのだ。今別れなければ、きっと先延ばしにする毎に深く傷つける事になる。 会う度に別れを切り出そうとして、顔を見れば言葉に詰まる。 これ以上好きになってはいけないと、手荒く抱くようになった。嫌われてしまえば風悠から離れていくかもしれない。そうすれば、嫌でも諦めざるを得なくなるだろう。 そんな狡い考えで、ずるずると関係を続けてしまった。 優しく抱いてやりたい。でも、これ以上深く繋がる訳にはいかないのだ。だから雑に抱く。それなのに、出来るだけ長く手元に置いておきたい。 真剣に番を探しているΩに対して酷い仕打ちをしている事はわかっていた。 わかっていても、手放せない。番にしてなどやれないのに。 いっそ、風悠を噛んで孕ませでもしてしまって、家を捨ててしまおうか...。 けれど...そうしたら、会社はどうなるのだろうか。 考えあぐねている内に、その日が来た。 「み、ちく、ん…ァ、だめ…だめ…ッ、あああああっ!」 「風悠、可愛い……。」 「いやっ、そこダメっ、あん、ダメ、できちゃう、できちゃうよ…にんしん、しちゃ…あんっ!!」 「子供出来たら番になれば良いだろ……くっ…、」 「ほ、ほんとぉっ?うれしい…ああんっ、いくぅっ!」 路也がマンションの寝室で風悠を抱いていて、無心で突いている最中に、ドアの開く音がした。 最初は気の所為かと思ったのだ。誰も入って来られる筈が無いと。 風悠にすら未だこの部屋の合鍵は渡していないし、スペアは一つ、余りにうるさい母親には渡したが、万が一の為に渡しただけで勝手に来たら取り返すと言ってある。 だからまさか、その次に真冬の声が聞こえてくるなんて思わず...。 「......路也...なに、してるの...。」 震えてはいたが、確かにそれは確かに路也の耳に馴染んだ婚約者の声だった。 「......真冬...。」 呆然と、部屋に入って来た彼の、蒼白になった白い顔を見つめ、 「ちが、これはっ...!」 まさかという焦りと驚きで、咄嗟に言い訳が口を吐いた。 意外にも、そんな路也と真冬の様子に、風悠は直ぐに気づいたようだった。 後ろから自分を貫いていた路也を振り返り、真冬と交互に見た後。少しの間、傷ついたような表情を浮かべて、それから俯いてしまった。 結局傷つけてしまったと、路也は後ろから風悠を抱きしめようとした。 だが、次の瞬間。 風悠が何か、小さく呟いたが、よく聞こえない。 とにかくこの場を何とか収めて風悠を逃がさなければ。風悠は真冬の存在など知らなかったのだから、傷つけてはしまったがこれ以上巻き込む訳にはいかない。 「風悠、ちょっと今黙ってろよ、あの、これは違うんだ、真冬。遊びで…、」 真冬に逆上されたら面倒だ。本気の相手と知られるよりは、風悠を傷つけたとしても1回こっきりの遊び相手だったという事にしておく方が、結果的には風悠に及ぶ被害が最小限で済む筈...。 風悠はおっとりとしていて、こんな修羅場のど真ん中に置かれ続けたら、きっと泣いてしまう。先ずは真冬を宥めて、風悠をここから離脱させよう。何、風悠へのフォローは後から幾らでも出来る。 こうなった事が真冬に知れたからには、真冬を宥めた後にやはりどうにか婚約破棄に持っていこう。 借金がどれくらいになっているのかはわからないが、場合によっては会社を畳んででも両親に返済してもらって、路也は自分の分の浮気の慰謝料を払う事に専念しよう。 風悠とは婚約破棄後に改めて話をして、番になればよい。路也の事が大好きな風悠なら、きっと許してくれる...。 しかし。 路也の、そんな甘っちょろい姑息な考えは、次の瞬間に全て覆される事になった。
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