1、突然の婚約破棄

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1、突然の婚約破棄

「ベティ様、カール・ヘザートン男爵から直ぐに屋敷に来るようにと連絡が有りました」 「まあ、何でしょう?」  ベティ・フローレスは婚約者からの急な呼び出しに驚きながらも、慌てて身支度を調えた。馬車を呼び、ヘザートン家へついたのは正午過ぎだった。 「カール様、何かご用でしょうか? 至急来るようになんて珍しいですわね」 「ベティ嬢、単刀直入に言おう。私との婚約は破棄してくれ」 「何ですって!?」  ベティは一方的な言い分に困った。 「私、何か致しましたか?」  カールは言った。 「何もしていないのが気に入らないのだ。仕事ものんびりとし、本を読み、自分の時間だけで生きているのが苛立つ」 「まあ、それでは私のことが嫌になったのですか……」  ベティは呆然としていた。  カールは時計を見て舌打ちした。 「無駄なことに時間を取った。それでは、これで失礼する。次の仕事が控えているからな」  カールは挨拶もそこそこに立ち去った。 「ベティ嬢、のんびりしている貴方が悪いのですわよ」  声の方を向くと、ディオン家の令嬢ハリエットが立っていた。 「ハリエット様!? どうしてここにいらっしゃるんですか?」  ベティの問いかけに、ハリエット嬢は鼻で笑って言った。 「私、仕事も私生活もカール様と過ごすことになりましたから」 「あら、そういうことでしたの……」  ベティはカールの裏切りに、胸を痛めた。 「私、屋敷へ戻ります。カール様にもよろしくお伝え下さい」 「どうぞ、帰り道はあちらですわよ」  ハリエットはベティに退場を促すように、右手を玄関に向けた。 「どうしましょう、父上と母上に何と言えばよいか……」  ベティは帰りの馬車の中で途方に暮れていた。
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