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俺は煙草を吹かせる所を求めて屋上に上がっていた。
校内は全面禁煙なのだが、まぁ、一本くらいならバレないだろうと考えてのことだった。
――ったく、喫煙者には世知辛いぜ……。
人目を気にしながらこっそり吸っていた十代に戻った気分だった。
鍵を開けて、薄汚れた足場を気にしながら屋上に出た。
空に浮かぶ羊雲を見るともなく眺めながら、詰めていた何かを溜息に変えて吐き出した。
「ふぅ……お疲れ、俺」
煙草を銜えて、火を点けようとして――。
ドォンっと腹に響くような振動に思わず身をブルわせた。
真下の階の音楽室から漏れ出るピアノの音だった。
誰もが知る楽曲、ベートーヴェンの『運命』。
もう誰が弾いているのかは想像がついた。
一心不乱の激しい音色――あの揺るぎのない目をした泉透子に間違いないだろう。
彼女はピアノの為だけに今がある。
そして、この先も。
それが彼女の望んだ運命だと、そう思わせる音色だった。
俺は煙草を燻らせ、そんな彼女の音色に水を差す。
「そう急かすなよ……」
――誰しもが運命と思える何かに出会えるわけじゃあないさ……。
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