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「顔、真っ赤だけど、どうしたの?」
私の人生観を狂わせまくっている彼が、涼しい顔をして帰って来た。
「外、陽が落ちたらもうかなり冷え込むよな。風邪、引かないでね」
柔らかに笑う彼に、何だか泣きそうなほど心が軋む。
――どうしよう。
この顔を曇らせてしまうのかもしれないと思えば、急に怖くなった。
義父を失望させ、せっかく修復されそうな兆しを見せている親子関係に、また亀裂を生むことになってしまうのか?
もしも、夫に本当に望まれなかったら?
その時は、堕胎を選択しなければならないのだろうか?
ゴクリと喉が震えた。
――イヤだ。
私自身、子供を望んで挑んだ結果ではないけれど、不思議なほどに本能が抗っている。
私一人では何の責任も持てないというのに、それは酷く身勝手なことなのかもしれない。
それでも私に堕胎の選択は選べない。
直人さんにも選んで欲しくない。
『きちんと二人で考えて、責任を持って行動します』
あの時の、彼の台詞が頭を過る。
果たして、私たちはきちんと考えてきたのだろうか?
答えは否だ。
家族計画をきちんと話し合うことはしていない。
何となくの成り行きで収めていたからこそ、いざこうした事態になって、狼狽えているのだ。
義父のあの言葉は、忠告だったのだと思う。
私たちが、後悔する選択をしない為に――。
大事なことは、例え言いにくいことであろうと、きちんと言葉にして話していかなければならないのだ。
「直人さん、大事な話があります」
私は居を正し、自ら鉄を叩く気持ちで言葉を切り出した。
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