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何の前触れもなく、急に呼び捨てとかあり得ないって思っていたけど、その時は手を繋いで歩いていることに舞い上がっていた私は、甘い声で自分の名前を呼ばれて、胸の高鳴りを隠せないでいた。
「守屋さん……」
「右京って呼んで」
「右京……さん」
「ふふ、右京だよ」
こんなやり取り、少女漫画だけだと思っていた。
自販機で缶コーヒーを買って、右京はゴクゴクと飲んだ。喉仏が上下するその様子ですらたまらなく色っぽい。
「ん、飲む?」
そう言って飲みかけの缶コーヒーを私に差し出した。
初めて飲むブラックコーヒーは、ただ苦くて一口で終わった。右京は「子供だね」と意味ありげに笑い、残りのコーヒーを飲み干した。間接キスという言葉が脳裏を横切り、口元ばかり気になった。
「コーヒーごちそうさま」
私が照れていると、右京はいつも「かわいいね」と言って甘い笑顔をくれた。
「缶コーヒーはあんまり美味しくないよね。今度一緒にスタバ行こうか」
さりげなくスマートにデートの約束もできちゃう。右京は本当に絵に描いたような素敵な人だった。右京の沼にハマるまでそう時間もかからなかった。
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