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沼に沈む
私は右京にのめり込んだ。こんな素敵な人、他にはいない。もっと好かれたい。右京の隣が似合う女になりたい。
右京がかわいいと言った髪型にして、右京がかわいいと言った服を着て、右京がかわいいと言ったメイクにした。
最初は私にだけ『特別』なんだと思っていた。でもよく考えたら、こんなかっこいい人モテないわけがない。
思い切って聞いてみた。
「右京って、彼女いるの?」
「気になる?」
「だって、絶対モテるでしょ」
俯いてモジモジしていたら、急に右京に抱きしめられた。
「え……」
「じゃあ、千晴が彼女になってよ」
耳元で甘い声で囁かれた。私はあまりの嬉しさに涙が出てきた。右京の腕の中はほんのりタバコの香りがする。私も右京の背中に腕を回して抱きしめ返した。
「うん……」
私の初めては全て右京に奪われた。
でも、徐々に明かされる右京の本性。気付きたくもなかったし、気付かないフリをしてきた。知ってしまうのが怖かった。知らなければ、ずっとこのままでいられると思っていた。
二人で街中を歩いていると、前から歩いてくる女性が急に右京の名前を呼んだ。
右京は一瞬嫌そうな顔をした。
「知り合い?」
「まぁ……」
その女性は目を見開いて、ものすごい形相でツカツカ歩いてきた。
「ちょっと! 右京、こいつ誰?」
その女性は右京よりも年上に見える。
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