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「……」
右京は黙っていた。
「ねぇ! 右京は私の彼氏だから! 取らないで!」
私を睨みつけたその女は、大きな声で怒鳴りつけた。
「ねぇ、右京! なんなの、この女!」
あまりの気迫に恐怖を覚えた。恐る恐る右京を見た。ものすごく冷たい顔をしていて、私の知らない右京を見た気がした。不穏な空気に指先が冷たくなる。
「人の彼氏取らないで!」
睨まれたと同時に、その女に肩を突き飛ばされた。衝撃でよろけてしまい、転けてしまった。
「いたっ……」
手を擦りむいてしまった。血が滲んで傷口がジンジン痛んだ。恐怖と痛みと虚しさが一気に襲ってきて、不覚にも泣けてきた。
「大丈夫?」
右京はその女に見向きもせず、私に手を差し出した。私を起こすと私の手を引っ張って、その場から立ち去ろうとした。
「右京! どこ行くの? 置いていかないで!」
右京の手を掴んで引き留めようとしたその女の手を、なんの躊躇もなく振り払った。泣き崩れる女を振り向くこともなかった。
近くに公園があったので、手洗い場で傷口を洗い流した。
「前の彼女なんだ。さっきの」
「そうなんだ……」
本当に前の彼女? 右京のこと信じたい……。信じたい……けど……。さっきの出来事があまりにも強烈すぎて、私の感情をぐちゃぐちゃにしていく。
ハンカチで濡れた手を拭いた。傷口を見ていたら、
「まだ痛い?」
と言って、右京は傷口をペロリと舐めた。傷口がしみたけど、それよりも右京の色っぽさに私の心は奪われた。
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