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「消毒」
もうダメだ。私は右京に支配されている。もう離れられない。
私は右京に寄りかかった。肩を抱かれて、そのままフワフワした気持ちになる。そしてこの香り……。右京の香りではない、誰かの香り……。
「泣くなよ」
右京の温かい右手は私の頬を包み、親指でそっと涙を拭った。
「右京、さっきの人……」
「あのさ」
さっきの人のこと聞こうと思って話しかけたら、冷たい声で右京が話を遮った。
「俺、めんどくさいやつ嫌いなんだよね。あの女みたいな」
冷ややかな右京の表情を見て、私は何も言えなくなった。嫌われたくない。あの女のように、右京に捨てられたくない。
他の女の影に感付いて、右京に問いただしたりしたら、きっとあの女のように冷たくあしらわれるんだ。
でも、なんとなく気付いていたよ、他にも私のような彼女がいること。家に行っても、時々感じる残り香や、明らかに私のものじゃない髪の毛が落ちていたり、わざとなのかピアスを片方だけ忘れていたり、右京が吸わないタバコの銘柄だったり……。
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