満月のお祈りとたてがみの花

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満月のお祈りとたてがみの花

「なあビスタ、満月だよ満月!」 主人が私の首を叩き、嬉しそうな声をあげる。視線の先には空。大きくて丸い月がある。あれのことを言っているのかもしれない。 「お月さま~!明日行く村が豊作になりますように!それで旅人に当分のパンと肉を分けてくれたらうれしいなぁ」 太陽が沈むと、主人は動きがおぼつかなくなる。どうやら人間は太陽がないと目が見えなくなるらしい。 「知ってるか?月は地球の一番近くを回ってるんだよ。なんでかって?知らないねぇ。でも私はひらめいたのさ。あの形はいかにも、神様が地球の見回りをするのに都合が良さそうじゃないかと」 この間などは私から降りて一歩足を動かした途端、木の根に躓いて両の膝と手から血を出していた。人間は二本足だから、一本の足を取られただけで簡単に倒れるのだ。 「形が変わるのは、あれが窓だからだよ。ちょっと閉めてさぼってるのさ。だから今日はやる気満々だね。一番お祈りが届きやすいはずさ」 だから月が大きくて明るいときは、主人もよく見えて嬉しいのだろう。私も主人が怪我をしなくなるなら結構だ。 「お前もお祈りしておいた方がいいぞ。代わりにしてやろうか?そだなあ。安心して休んで、うまい草をたくさん食べてほしいな!なんだ、結局豊作ってことだな」 太陽があるとき、主人は道中で私を止め、花をむしって私のたてがみに織り込んで遊んだり、景色に感嘆して私に話しかけたりする。私には主人が吟味する花の違いはわからないし、景色も代わり映えしないように思える。だから、主人は少し暗くなると見えない代わりに、明るければものの違いや良さが細やかに見えるのだろう、と私は考えている。 「なんにでもお祈りしているって?わはは、いいじゃないか。悪いことはお祈りしないからさ」 そうやって気に入った花や景色を見つけたときの主人の様子は面白いし、私に分け与えてくれるのは嬉しいものである。
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