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辛口料理と木の怪物
「で、さっき聞いた話では、パールシャンの料理はすごく辛いらしい。なあ、どうだろうかビスタ」
名前を呼ばれ、少しだけ耳を向ける。主人は焚き火の跡に手持ちの枯れ枝を足して、カンテラから火種を移す。
「な、せっかくなら食べなきゃなあ。まあお前は食べれないけど。残念だな」
主人が焚き火をかき回すと、乾いた枝にゆっくり火が乗り移っていく。それに従い明るく暖かくなる。主人は私の腹に体を預けて毛布を被った。
「パールシャンは都会だってね。久しぶりにショーなんか見たいね」
やがて火は大きくなり、木の影が怪物のようにうごめく。思わず鼻を鳴らした。
「心配すんなって。定住する気はないんだ。お前も厩で暇してるより、私といた方が楽しいだろ」
毛布を掛けられ、腹を撫でられる。いくつかの言葉と気持ちは分かるが、私は主人の話が分からない。それは主人も承知で、でも機嫌よく喋り続ける。
「……なあ、ビスタ……」
今日もおやすみはない。木の怪物は息を潜め、炎だけがフツフツと呟いている。
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