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彼が来た。
十年前より、少し恰幅のよくなった体で。
「やぁ、久しぶり。元気そうだね」
「あなたも元気そうね」
「あの日の約束を覚えてくれていてありがとう」
「こちらこそ。あの約束があったから、わたしは今まで頑張ってこれたの」
彼がわたしを眩しそうな顔で見る。
「ぼくもだよ。きみに再会できたときに恥ずかしくないように頑張ったよ」
「あのとき、わたしたちは二十歳だった。世間では、二十歳といえば……って、よく言われていて。友人たちも、いいきっかけだからって次々にトライして」
「ぼくもだよ。でも、失敗してしまった。とても、恥ずかしかったよ」
互いに昔を思い出ししんみりとした気持ちになってしまう。
「あのときわたし、『ごめんなさい、無理です』って泣いてしまった。そのとき、隣のブースからあなたの声が」
「あぁ、ぼくも『怖い、もうやめてくれ!』と取り乱し、鼻水まで出していた」
あの日の互いの醜態に、わたしも彼も苦笑いを浮かべる。
「あのあとわたしたち、慰めあって。もし十年後も今と同じ志を持っていたら、この場所で同じ時間に再会しましょうと約束をしたのよね」
「あぁ、この約束があったから、ぼくも頑張れた。違う空の下、ぼくと同じように頑張っている君を想像し、なんど励まされたか」
彼が右手を差し出してくる。
わたしもそれに応えるように、重ねる。
二人の手がしっかりと握りあう。
互いに、少し汗ばんでいるのは想定内。
「さて、いきますか」
「いきましょう」
目の前の白い扉には、赤い十字架のマーク。
わたしたちは、手をしっかりと握り合ったまま、献血ルームの扉を開けた。
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