派遣先でこき使われる

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 グルルと唸り声を上げ、鋭い爪で空を裂く。  獣は全身泥だらけで目が開いておらず、周りが見えない様子で闇雲に暴れていた。  ハンターギルド『ベルロア』の魔弾士たちは、果樹園の中で暴れる獣に魔法の弾を撃ち込む。殺傷力のない麻痺弾や睡眠弾だが、魔弾士たちの連携ができておらず全く効いている様子はない。  魔弾士のコーレルが苛ついた声をゼリエラにぶつける。 「ちょっと、これ魔法生物じゃないの!? カニエラ何とかしなさいよ!」 「ゼリエラですよお。みなさーん、はなれてくださあ〜いっ」  魔導士ゼリエラは周りの魔弾士たちに声をかけ、泥だらけの獣に睡眠魔法をかけるが、抵抗力が高いのかなかなか眠らない。  魔法生物は人間と同じように魔法を使う生物で、国から保護指定されている。狩猟や駆除が禁止されているため、あれが魔法生物であれば仕留めるわけにもいかない。  全員に防御魔法をかけていた治癒士アロイが、ゼリエラに落ち着いた様子で声をかけた。 「ゼリちゃん、一瞬でいいから物理的に動きを止めてくれる?」 「はあい! アロイくんいきますよー!」  ゼリエラは捕獲用の縄を魔法で飛ばし、獣の体と足に絡ませた。  その場でもがく獣にアロイが麻痺系の魔法をかける。その体が一瞬震えた隙を見逃さなかったゼリエラは、今度こそ獣が倒れるまで睡眠魔法をかけ続けた。  もがいていた体がゆっくり沈み、完全に動かなくなったところを確認して、ゼリエラとアロイは顔を見合わせて同時に息をつく。 「アロイくん、さすが〜ですね」 「ゼリちゃんなら的確にやってくれると思ってたよ。ありがとう」  絶対的信頼と安堵を(たた)え、にっこりと表情を和らげたアロイの笑みは天使のよう。  アロイの言葉が嬉しくて自然と笑顔が浮かんだゼリエラは、胸まで下がるホワイトブロンドの三つ編みを左右でぎゅっと握り締めた。  二つ年上のアロイは、モカブラウンでくりくりの癖毛に愛らしい目。笑えば年上であることを忘れてしまうほど可愛く見える同僚だ。  歳上なのに可愛いそのギャップに、ゼリエラはいつも胸を踊らされていた。
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