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ぶるりと身体が震えた。
腕をさすった仕草を見てか、上からさらに笑い声が落ちてきて、小声と装った「聞かせるための悪口」が追加される。状況から考えて、犯人は彼女たちだろう。
私が認識しているゲーム世界だと仮定すれば、舞台はお嬢様学校。隣接する男子校と交流しながら進めていく一風変わった設定だ。
共学じゃないとは驚愕だけど、海外のパブリックスクールって基本的に男子校だよね。男女入り乱れているほうがむしろ異質。貴族令嬢は家庭教師による自宅学習のはずだけど、それだと物語が始まらないよね。仕方ない。
ゲームはマルチエンディング方式で、恋愛に邁進するもよし、勉強に猛進してキャリアウーマンを目指すもよしというところも、ちょっと変わっていたと思う。
挨拶が「ごきげんよう」というハイソなお嬢様学校に通う主人公は、地方の男爵令嬢。領地は取るに足らない場所だったはずだが、山から新しく採掘された鉱石が魔力を良く吸うことがわかった。使い捨てが当たり前だった魔石を、再利用できる充電式魔石として世に出したことで脚光を浴び、一部からは成金貴族と囁かれる立場にある。
その背景から、土砂や砂利をぶっかけられたことはあるのだが、上から石を落とされたのは初めてだ。
しかしこれは序の口で、そのうち的当てゲームよろしく石が落ちてくることになるはずだ。
リーダー格の女生徒は、これまで国内の魔石流通の最大手だった伯爵家のご令嬢で、名はアザリア。我が領地の充電石のおかげでだいぶ売り上げが落ちて、それゆえの嫌がらせであることがのちのち作中で語られるんだけど、だからといって石を上から落とすなんて危ないだろう。頭の上に落ちたらどうするんだ。
私は彼女たちがいる教室へ向かって走り出した。
窓を乗り越えてショートカット、廊下を走り、階段を一段飛ばしで駆け上がる。
さすが十代。身体が軽い。
彼女たちがいるはずの教室へ向かうと扉を開ける。
驚いたことにまだそこに居て、肩で息をする私を奇異の目で見つめた。
「まあ、さすが田舎の出ですのね。とっても足がお速いですこと」
「おかげさまで、体育の科目でも『優良』をいただいておりますわ。アザリアさまは運動が苦手でいらっしゃるのですね、お気の毒に」
「はあ!? 運動が得意だなんて、淑女が聞いて呆れますわ」
「身体が丈夫なのは誇るべきことですわよ。貴族社会では次代を育むことが責務と伺っておりますが?」
病弱な身体では出産も難しかろう。この世界の医療がどれだけ進んでいるかわからないけど、現代ですら出産は命がけなのだから。
「それよりも、これはアザリアさまが落とされたのですか?」
私は手のひらに欠けた魔石を載せて見せつける。するとアザリアは眉をしかめ、ふんとそっぽを向いた。
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