嫌がらせを受けて前世を思い出したので、注意喚起することにしました

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「なんですの、それ。そのように地面に落ちている石すら拾ってくるだなんて、卑しいものですわね」 「こちらはアザリアさまのご実家が扱っていらっしゃる魔石ではありませんこと?」 「魔石なんて、どれも同じではありませんか」 「いいえ、違います。ペリエ伯爵家の魔石は加工が丁寧で、ケレン味のないことで有名です。こちらの魔石、とても上質なものです」  業界シェア、ナンバーワンの名は伊達じゃないのだ。  家柄を盾に取って威張るなら、自社製品のことぐらい把握しておいてほしい。それぐらいの矜持を持て。 「手に取って確認しましたが、刻印が入っておりますわね。なんらかの記念に作られた魔道具にセットされていた、初期ロットの魔石ではないでしょうか。記念品ではよくあることだと聞き及びます」  成り上がりの魔石屋だからこそ、業界のことはよく調べた。  ペリエ伯爵家は数代続く魔石屋で、ぽっと出の我が家なんて吹けば飛ぶような存在ではあるが、新しい魔石の形ということで許容され、なんなら共同で製品を作ってみようかという動きすらあるぐらいだ。  ペリエの魔石を多く扱っている商家もかなりの大手。ハーヴェスト家は爵位こそないものの、そのへんの末端貴族よりもよほど裕福で、社交界にも積極的に顔を出しているとかなんとか。  跡継ぎは長男なので、次男はみずから会社を立ち上げようとしており、今回の伯爵家とのコラボを言い出したのも彼らしい。子どものころから才覚を発揮していて、まだ二十歳ながら野心家だと評判の若手実業家である。 「……あの、わたくしは、べつになにもしていなくて、アザリアさまがどうしてもっておっしゃって」 「な、なにを言いますの。あなただってマリエが気に入らないって以前から何度も」 「それはアザリアさまが声高におっしゃるから、わたくしたちは伯爵家には逆らえませんし」  私が考えこんでいると、目の前で仲間割れが始まった。ずっと黙っていた片割れの女子が無関係を主張し、アザリアは食ってかかる。醜い争いだ。もともと仲間でもなんでもなかったのかもしれないけど。  だが、そんなことはどうでもいい。止めなかったんだから同罪である。
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