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「そちらさまの言い分もわかりますが、殺されかけた私にとって、どちらも犯人ですわよ」
「殺され!? 大袈裟なことを」
「当然でしょう。これが頭の上に落ちていたら、どうなっていたとお思いですか?」
「どうって、たかが石じゃない。しかもこんな小さな」
「こちらの魔石、かなりの硬度がありますわよね。その石がこうして欠けてしまったということは、どれほどの衝撃になるか想像がつかないのですか?」
子どものちょっとしたイタズラがとんでもない事故を引き起こすことがある。歩道橋の上から物を落として走行中の車のフロントガラスにヒビが入ったとしたら、どうなるか。状況によっては何台もの車を撒きこんだ重大事故になり、多くの命が失われかねない。
「初等科生ならともかく、私たちはもう十七歳です。自分がやったことが他人の命を奪う可能性があることを理解し、行動を起こすべきではありませんの? どう責任を取るおつもりですか」
「責任って」
「アザリアさま、昨年デビューを済ませ、王子殿下とファーストダンスを踊ったのだと自慢――いえ、報告なさっていたではありませんか。私たちの誰よりも早く社交界へ出た。つまり世間で認められた大人になっているわけですから、当然ご自身で賠償責任を負っていただけるということですわよね」
「ばいしょう?」
アザリアは目を白黒(彼女の瞳は碧眼だけど)させ、隣に立っているモブ令嬢に助けを求めるも、彼女は一歩下がって距離を取った。モブ子さんはアザリア父の部下の娘らしいので、権力に逆らえず巻き込まれたんだろうけど、これも社会勉強だと思って聞いてほしい。お店の信用問題にかかわるとあなたの家もヤバいんだから。
本人だけではなく親兄弟にも影響が出るであろうことを言うと反論されたけど、他家が起こした問題で発生した悪意ある噂話をひとつも聞いたことがないのかと問い返せば、目が泳いだ。
そうだよね、むしろあなたが発信源になって、ないことないこと言いまくってましたよね。
ご令嬢のお茶会は恐ろしい場所です。どこの世界でもスクールカースト上位の女子は怖い。
同年代ならともかくとして、今の私は中身がアラサー事務員。ひとつ労働災害が起きれば、どれだけのひとが動き、対応に走り、内容によっては公的機関の立ち入りがあり、類似箇所の洗い出しがおこなわれ、改善を指示されたりするのかを身をもって知っているのだ。苦言を呈したくもなるというもの。これは私の優しさだといってもいいだろう。
断じて前世の死にざまを思い出した、ノーヘル野郎への八つ当たりではないのである。
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